マンション管理規約の弁護士費用の負担の定めが専有分の賃借人(占有者)にも適用されるか(東京地判令和4年1月21日、大阪地判令和4年1月20日)

標準マンション管理規約では、区分所有者等(賃借人含む)が管理規約や使用細則に違反した場合や不法行為を行った場合、理事長が行為の差止等を行うことができる旨規定し、弁護士費用等について区分所有者等に請求できると規定しています。また、同様に管理費の滞納に対しては、理事長が訴訟等必要な措置をとることができる旨規定し、弁護士費用等については区分所有者に対して請求できる旨規定しています。

 こうした弁護士費用の負担に関する規定は、区分所有者との関係では有効と考えられており、裁判でも実費相当額の請求が認められています(東京高判平成26年4月16日)。問題は、区分所有者から専有部分を賃借している占有者に対しても効力が及ぶか否かです。この点については異なる判断をした2つの裁判例があります。

 東京地判令和4年1月21日は、「区分所有法46条2項は,「占有者は,建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき,区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。」と定めており,その趣旨は・・・建物や敷地等の使用方法に関する限り,占有者は,賃貸人である区分所有者のみならず,区分所有者全体に対しても上記のようなルールを守る義務を負うよう定められたものと解される。また,使用方法以外の事項,例えば管理費の支払いといった点については,仮に規約や集会の決議により定められた場合であっても,占有者に対しては効力を有しないと解される。・・・そして,同条項の内容は,本件マンションの建物又は敷地等の使用方法そのものを定めたものではなく,管理組合法人である原告につき生じた費用の一種である弁護士費用等について,その請求可能額を定めたものである。そうすると,前記の区分所有法46条2項の規定に当てはまるものではなく,むしろ管理費の負担方法に関する性質のものと解さざるを得ない。・・・そうすると,本件管理規約67条4項は,区分所有法46条2項に照らし,被告に対しては効力を有しないと言うべきである。」と判断しました。

 一方、大阪地判令和4年1月20日は、「本件管理規約68条1項は,区分所有者又は占有者が区分所有者の共同の利益に反する行為をした場合には,本件管理組合は区分所有法57条から60条までの規定に基づき必要な措置をとることができる旨を規定し,同条2項は,本件管理組合が本件管理規約に違反した者に対し訴訟等の法的措置を行った場合,その違反者に対して,弁護士費用等その他の法的措置に要する費用について実費相当額を請求することができる旨規定している。被告は,本件各住戸の使用方法につき,区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う(区分所有法46条2項)から,専有部分の使用についての違反行為に対する措置を定めた本件管理規約68条1項及び同条2項の規定は,本件各住戸の占有者である被告にも適用されると解される。」として、賃借人に対しても弁護士費用等負担について定めた管理規約の適用を認めました。

 両判決とも、区分所有法46条2項により占有者が負う義務は建物、敷地、附属施設の「使用方法」についての義務に限定されるとしていますが、前者は、マンション敷地にバイクを無断駐車したとして不法行為に基づく損害賠償請求をした事案で、管理規約の定めを単に費用負担に関する規定と理解して占有者への適用を否定し、後者は、マンションの使用方法が規約違反に当たるとして管理規約に基づき使用の差止を求めた事案で、使用方法に関する規定と理解して占有者への適用を肯定しています。結局のところ、事案の違い、規定内容の違いにより判断が分かれたとも考えられますが、無断駐車も敷地の利用方法についての違反行為(不法行為)であることから、弁護士費用負担に関する規定の適用もありえたのではないかと考えます。