交通事故における会社役員の休業損害について

 会社役員の報酬は、労務の対価としての性質を有する部分と利益の分配としての性質を有する部分があり、後者については休業しても支払われることから休業損害は生じないことになります。一方、前者についは、休業による減額あれば休業損害が生じることになります。もっとも、役員報酬のうち労務の対価としての割合がどの程度になるか争われることが多く、その割合については、会社の規模・利益状況、当該役員の地位・職務内容、年齢、役員報酬の額、他の役員・従業員の職務内容と報酬・給料の額、事故後の当該役員及び他の役員報酬額の推移、類似法人の役員報酬の支給状況等から判断することになります。例えば、家族経営の小規模会社で会社業務全般を行っていたような場合は、報酬全体が労務の対価と判断される可能性が高くなります。
 なお、役員報酬のうち一部または全部が労務の対価と認められた場合も、役員の生活保障の観点等から休業した役員に従前の報酬と同額の報酬が支払われる場合があります。この場合、厳密には役員について休業損害が発生しないことになりますが、休業している役員に対して報酬を支払った会社に損害(企業損害)が発生したことになり、会社が役員に支払った報酬分について損害賠償請求することができます(横浜地判平成24年12月20日、大阪地判平成23年3月16日、東京地判平成14年5月20日)。