住居部分は住居として使用しなければならないとする管理規約設定の総会決議の無効が争われた事案(東京地判令和2年6月24日)

1 事案の概要

 本件本訴は、マンションの部屋を店舗として貸し出している区分所有者が、管理組合に対して、住居部分は住居として使用しなければならいとする管理規約の設定に関する総会決議は、専有部分を賃貸用店舗として使用収益する当該区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすにもかかわらず原告の承諾を得ることなく決議されたものであるから区分所有法31条1項に違反し無効であるなどと主張して決議無効を争うとともに、不法行為に基づく損害賠償請求した事案。
 本件反訴は、管理組合が本訴に対応するための弁護士費用について、管理規約に基づき当該区分所有者に請求した事案。

2 裁判所の判断

(1)区分所有法31条1項に違反するか否かについて

 ア 「特別の影響を及ぼすべき」場合に当たるかについて      

 202号室は、遅くとも原告が取得した時点で、台所や浴室も設置されていない事務所仕様の間取りとなっており、原告は、これを第三者に賃貸して収益を上げる目的で取得して以降、事業用建物として事業者に賃貸して収益を得ていたのであるから、事務所として使用できないとする管理規約が設定されると、原告の202号室に係る使用収益権は多大な制約を受け、原告が所期の目的を達することが困難になるとともに、これを住宅として使用する場合であっても相当多額の改装費用の支出を余儀なくされることとなる。そうすると、事務所として使用できないとする管理規約が設定されることによる原告の不利益は決して小さいものとはいえない。
 また、管理規約の設定当時又はそれ以前に、202号室が事業者に賃貸されていたほか、2部屋についても事務所として使用されていた実態があるところ、このことにより、本件マンションの地上2階以上の居住者の住環境が格別害されていた様子はうかがえない。
 以上のような202号室の現況や原告による同室の利用状況等に照らすと、事務所として使用できないとする管理規約を設定して原則住宅としての使用に限ることは、その必要性、合理性に比して、これにより原告が受ける不利益の程度が大きく、その不利益が一部の区分所有者の受任すべき限度を超えると認められる場合に該当するから、区分所有法31条1項後段の「特別の影響を及ぼすべきとき」に当たる。

 イ 同意があったかについて

 区分所有法31条1項後段の承諾は、管理規約の設定等の決議に際してこれに賛成する旨の意思表明をした場合もこれに含まれると解すべきところ、原告は、本件決議に先立ち、議決権行使を理事長に委ねる旨の委任状を提出したのであるから、これにより、原告の上記承諾があったものと解するのが相当である。

(2)管理規約に基づき弁護士費用を区分所有者に請求できるかについて

 被告管理規約には、区分所有者等において規約違反等の事実があり、理事長が、当該区分所有者等に対してその是正等を請求するための訴えを提起した場合に、違約金として、これに要する弁護士費用等の支払を求めることができる旨を定められているに過ぎないところ、本件は、区分所有者が自身の規約違反行為の根拠とされた被告管理規約の設定を承認した本件決議が違法無効であって同規約の規定が無効であるにもかかわらず規約違反行為があるとして退去要求等を受けたと主張して管理組合に損害賠償を求める訴訟に対し、管理組合が応訴したものであって、区分所有者の規約違反行為を是正するための訴えがされているものではないから、被告管理規約が適用される場面ではない。また、区分所有者の行為が不法行為を構成するものではない。
 そのような場合に、応訴した管理組合に管理規約に基づく弁護費用等の諸費用の請求を認めるとすると、本件マンションの区分所有者が管理組合の行為の違法を主張して訴訟提起することに対する萎縮的効果を生じさせ裁判を受ける権利を実質的に損ないかねない上、我が国においては、訴訟追行に要する弁護士費用を敗訴者の負担とすることを原則とするものではないことからすると、相当とはいえない。

3 コメント

 マンションの専有部分の利用方法の制限に関し、区分所有法31条1項を根拠として争われる場合がありますが、本件では、「特別の影響を及ぼす」場合に当たるとしました。本件では、従前から事務所として賃貸されていた物件を賃貸目的で購入したこと、当該物件には風呂などの居住用の設備が設置されていないこと等から、区分所有者の不利益が大きいと判断したものと思われ、その点は妥当と思われます。また、同意については、総会決議に委任状を提出したことをもって承諾したものと認定しています。
 そして、管理組合の応訴に対する相手方請求については、管理規約が定める対象ではなく、また、日本において弁護士費用等の敗訴者負担の仕組みがないことなどから、これを否定しています。