私傷病休職について

 

 私傷病休職とは、労働者が私的に負傷したり病気になったりして労務の提供が不能となった場合に一定期間労務への従事を免除し、休職期間満了時までに回復すれば復職し、回復しなければ退職(解雇)をしてもらうという制度で、多くの会社では就業規則に定められています。もっとも、休職制度を設ける法的義務はありませんので、私傷病休職等に関する規定を設けていない企業もあります。なお、私傷病休職に関する制度がない場合も、私傷病により労務を提供できない労働者をいきなり解雇できるかというと一定の制約があります。
 以上のとおり、私傷病休職制度は就業規則の定めによりますので、私傷病休職に関する規定がどのように定められているかが重要になります。一般的には勤続年数により休職期間に差を設け、休職事由を明確にし、会社からの休職命令の発令により始まります。ノーワークノーペイの原則から休職期間は原則として無休とし、その期間は賞与や退職金の算定期間からはずすことになりますが、一定期間有給とする制度設計もあります。なお、無休としても健康保険法99条により休業4日目以降は1年6カ月を限度として標準報酬日額の3分の2が支給されます。そして、病状が回復すれば復職可能となりますが、回復せずに休職期間が経過すれば退職(解雇)となります。このように休職期間中は原則として無休となり、休職期間内に復職できなければ退職(解雇)となることから、休職時や復職に関して労使間で争いとなる場合が多くあります。なお、会社としては、当然退職とすることを就業規則に規定すべきです。
 まず、休職の開始に際しては、就業規則に定めた要件を満たすかしっかり確認し、休職命令を発令する必要があります。そして、休職中は一カ月に一度程度診断書の提出を求め病状の確認をする必要があります。次に、復職の場合は、復職可能とされる治癒の判断基準が問題となりますが、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したときと解されています(浦和地判昭和40年12月1岐阜6日・判事438・56)。ここでいう従前の職務について休職前の職務を前提とすべきか否かについて、最判平成10年4月9日(判事1639・130)は「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供を十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である」と判示し、その後の裁判の多くでこの考え方が採用されています。もっとも、中小企業で配置転換する現実的可能性がない場合にまで復職させなければならない訳ではありません。なお、休職期間満了時点で完全な治癒に至っていなくても、当初は軽作業に就かせればほどなく通常業務への復帰できるという回復ぶりである場合には、使用者はそのような配慮義務を負うとした裁判例がありますので(東京地判平成16年3月26日・労判772・9)、こうした配慮も必要となると考えられます。もっとも、必ずしも全ての場合にこのような配慮義務を負うものではないと考えます。
 そして、復職可能の判断を誰が行うべきかですが、労働者とすれば治癒していなくても解雇を避けるために主治医にお願いをして就労可能との診断書を取得して会社に提出することも考えられます。そこで、会社としては、労働者の同意を得て主治医に面談して意見を聴取したり、会社の産業医の診断を受けさせるなどして最終的な判断をすることになります。もっとも、労働者が主治医と会社担当者が面談することや会社の産業医の診断を受けることを拒否した場合に強制をすることはできません。この場合は、就業規則に定められた復職に関する会社の業務命令に違反したということであれば、その点において懲戒等の処分の対象とはなり得ますが、就業規則に定められていない場合はこのような処分もできません。なお、労働者の提出した診断書を軽々に信用して治癒していない労働者を復職させ病状が再発した場合は使用者に安全配慮義務違反(労働契約法5条)による損害賠償責任が生じることになりますので注意が必要です。
 また、治癒を見極めるためにリハビリ出勤を規定している会社は、規定に基づいてリハビリ出勤を認めることになりますが、その詳細について就業規則に定められていない場合は、後々のトラブルを防ぐためにも労働者と詳細な合意書を作成しておくべきです。そのリハビリ勤務の内容が労働と評価できないものであれば給料の支払いは不要ですが、労働と評価できるものであれば原則として労働に見合った給料の支払いは必要となります。そして、治癒したものとして復帰しても再発する場合があります。その際、前述のとおり会社の安全配慮義務違反が問題となったり、再発による休職を従前の休職期間と通算できるかといった問題が生じえます。後者については、就業規則に通算に関する規定を設けておくのが望ましいです。 なお、労働者が労災を主張し、労災申請を申し出た場合、会社としては会社の考えを説明すべきですが労災申請を止めようとしてはいけません。会社としては、災害の原因や発生状況については証明できない旨の記載をすることになります。労災認定を受けた場合は、労基法19条1項により解雇が制限されます。