建築請負契約締結の際の建築業者の広告が虚偽の内容であるとして、注文主が建築業者に対し、請負契約の取消や損害賠償請求をした事案(東京地判令和3年9月15日)

1 事案の概要

 本件は、建築工事請負契約の締結に当たり、建築業者が注文主に対し「地震の揺れによる全・半壊ゼロ。」との記載があるカタログを提示して説明したのに、実際には阪神淡路大震災の際、その設計・施工上の問題に起因する大規模な損壊が生じており、半壊となった例が存在していたから、明確な虚偽を含む広告であったとして、注文主が建築業者に対し、①主位的に、消費者契約法4条1項の不実告知による取消し、同条2項の重要事項の不告知、錯誤無効、詐欺取消しに伴い、請負報酬額全額について不当利得の返還を求め、②予備的に、虚偽の内容を含む説明を行い、過去に建物の居住の安全性に影響を及ぼす事態が生じていた事例について説明する義務を怠ったとして、不法行為ないし債務不履行に基づき損害賠償請求した事案。

2 裁判所の判断

 建築業者は、過去の震災対象地域に存在する同社が設計、施工した建物について、同社基準による全壊・半壊認定となった建物がなかったことから、平成10年頃以降、「地震の揺れによる全・半壊ゼロ」という広告を用いた広告活動を行っていたというもので、広告は十分な裏付けを伴う内容であると認めることができ、かつ、注文主が主張する建築業者施工建物の過去の地震被害による裁判例も建物が半壊したことを認めるものではないから、建築業者の広告が内容虚偽の広告であるとか、これを用いた被告の説明が虚偽説明に当たるということはできないとした。
 なお、前提となる建築業者基準の合理性については、ツーバイフォー工法に対する被害調査の指標として、完全修復が困難な箇所があるかどうかを基準としたことは、住宅性能評価制度における耐震等級とも共通する考え方で合理性があるとした。

3 コメント

 本件は、建築された建物に何ら不具合は生じていない中、注文主が請負契約の取消等を主張して争ったことから、建築業者の広告内容の合理性についての判断が中心となりました。ポイントとしては、「全壊」「半壊」の定義、建築業者の施工物件で過去に半壊となった事例があるかでした。前者については、行政、業界団体において統一的な認定基準はない中で、建築業者の基準が公的な評価制度とも共通する考え方であるとして合理性を認めました。後者については、注文主主張の裁判例が半壊を認定したものではないから、その主張を排斥しています。

 本件では、虚偽広告に当たらないとされましたが、建築業者のパンフレットやチラシの内容めぐって争いとなることは少なくなく、注意が必要です。