注文者が施工会社に対し、建物の防水工事及び塗装工事が多数の瑕疵や未施工があるとして債務不履行解除を求めた事案(東京地判令和和元年12月5日)

1 事案の概要 

 本訴請求は、注文者が請負人に対し、建物の防水工事及び塗装工事等を目的とする請負契約につき、合意された工法による工事がなされず未施工部分もあるから完成していない、多数の瑕疵があるなどとして、主位的には債務不履行解除に基づく原状回復請求権及び損害賠償請求権を、予備的には瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権を主張するとともに、被告らに対しては共同不法行為に基づく損害賠償請求権を主張して、既払工事代金の返還、修補費用、慰謝料等の損害賠償請求をした事案。反訴請求は、被告Y1が、原告らに対し、上記請負契約に基づく代金支払請求権により残代金及びこれに対する工事を完成し引渡したとする日の翌日から支払済みまで遅延損害金の連帯支払を求める事案。

2 裁判所の判断

 本件契約について、当事者間において契約書は作成されていないことから、本件契約における本件各工事の内容については、当事者間において取り交わされた書面等(仕様書等)を基に、防水工事及び塗装工事における一般的な技術基準、標準仕様等をも考慮して、当事者間の合理的な意思解釈により判断すべきである。また、請負契約における仕事が完成したか否かについては、合意された内容に基づく請負工事が途中で廃せられ、予定された最後の工程を終えない場合には、仕事が未完成であり、請負工事が予定された最後の工程まで一応終了し、ただそれが不完全なために補修を加えなければ完全なものとはならないという場合には、仕事は完成し、目的物に瑕疵があるというべきである。
 調査報告書及び意見書に記載された一般的な技術基準、標準仕様等によれば、防水工事は一体的に施工すべきであり、既存防水層の一部を撤去し、一部にシート防水をすることはないから、本件防水工事として、屋上等防水層の全撤去、高圧洗浄、下地処理・調整、屋根(屋上・ルーフバルコニー)について通気緩衝工法によるウレタン塗膜防水、各戸ベランダ床について密着工法によるウレタン塗膜防水をすることが合意されていたといえる。しかしながら、本件では、請負会社は、本件建物の屋上の既存防水層を全てではなくその一部を撤去し、見積書に記載されたサラセーヌは使用せず、防水材(加硫ゴムシート)を直接下地コンクリートに張り付けたこと、パラペット立上り部にキャント材は使用せず、改修用ドレンの交換もせず、また、屋上パラペット、各ベランダのウレタン塗膜防水についても、サラセーヌ5140を使用しなかったことが認められる。さらに、保証書に添付された納品書に記載された通気緩衝工法に使用する絶縁シートであるMFシートマルチ等を一切使用しなかったことが認められる。そうすると、本件契約において合意された内容と異なる工事が一部について施工されたにすぎず、予定された工程を終了したということはできない。よって、本件防水工事は完成したと認めることはできない。
 また、本件塗装工事については、仕様書及び見積書によれば、その施工範囲、対象は明確とはいえないが、外壁及び玄関扉等の塗装工事及びコーキング工事をすることが契約内容になっていたといえる。しかしながら、調査報告書、塗膜調査結果及び意見書によれば、未施工の部分が認められる上、塗装部分につき、塗膜が十分に形成されておらず、剥がれる等の施工不良があり、その原因は、塗料の硬化剤不足又は撹拌不足が原因と考えられる。また、屋上EXPJ金物ジョイント部のタイル取り合い、1階共用廊下手すり金物取り合いの劣化した各シールの打替えがなされていない。そうすると、本件塗装工事について施工不良に加えて未施工部分があり、本件防水工事と併せて一つの契約により、一連の工程において施工されるものであるところ、本件各工事は全体として完成したということはできない。
 もっとも、債務不履行による解除が認められる場合において、工事内容が可分であり、しかも当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは、特段の事情のない限り、既施工部分については契約を解除することができず、未施工部分について契約の一部解除をすることができるにすぎないものと解される(最高裁昭和52年(オ)第630号昭和56年2月17日第三小法廷判決・集民132号129頁)。よって、既施工部分で利益のある部分は解除できず、未施工部分のみ解除できるとした。

3 コメント

 裁判所は、契約書がないことから、当事者がやりとした書面及び一般的施工基準をもとに合意した工事内容を特定し、防水工事については多くの部分が合意通りに行われていないことから完成していないとして、玄関まわりの塗装については行っているが不具合があり、防水工事と塗装工事は一つの契約であり、一連の工程で施工されるべきものであるから、全体としては未完成として債務不履行責任を認めました。もっとも、判例に基づき、可分で価値あるものについては控除しました。なお、施工業者の代表取締役については、単に代表取締役であることをもって不法行為責任を負うものではないとして、具体的な主張、立証がないとしてその責任を否定しました。調査費用は65万円程度認めました。