管理規約に定めのあるコミュニティ費の支払い義務の有無が争われた事案(東京地判令和3年9月9日)

1 事案の概要

 本件は,区分所有者の一人が,マンションの管理組合に対し,マンションの管理規約に定めのあるコミュニティ費(マンション内パーティーの費用として使用される)について、コミュニティ脱退届を提出して契約を解除しているため支払義務がないと主張して,契約解除日以降のコミュニティ費に関する債務が存在しないことの確認を求めるとともに,名誉毀損等の不法行為に基づく損害賠償請求等を求めた事案。

2 裁判所の判断

(1)コミュニティ費の支払義務(管理組合の徴収権限)の有無について

 区分所有法30条1項が、管理組合は,建物,その敷地及び付属施設の管理又は使用に関する事項について,規約で定めることが可能であると定めており、コミュニティ費については管理規約に規定されていることから、コミュニティ費が,建物,その敷地及び付属施設の管理又は使用に関する事項であるかの検討について検討する必要があるとした。
 そして、コミュニティ費は主にパーティーに支出されており、パーティーは居住者間のコミュニティ形成に寄与し,マンションの治安を維持,ひいてはマンションの資産価値低下を防ぐ効果を持つものとして実施されていると理事会が評価しているところ、パーティーは、自治会や町内会とは異なり、マンションの区分所有者,居住者又はその家族のみが参加可能であり、上記理事会の評価も合理的であるとして、コミュニティ費は管理規約に定めうるものであり(区分所有法30条1項に反しない)、管理組合がコミュニティ費を徴収することは、区分所有法3条に反しないとした。

(2)総会資料の記載内容や本訴訟の期日等の区分所有者への告知が不法行為となるか

 総会資料に記載された内容は、該当する区分所有者の名等を記載せずに,管理組合の見解を示したものに過ぎず、直ちに当該区分所有者の社会的評価が下がるものとはいえず、名誉棄損には当たらないとした。
 訴訟の期日を告知したことについては、マンションの区分所有者らが,管理組合の問題についての議論を公開の法廷で傍聴する意義は認められ,仮に訴訟の弁論を傍聴した者において,当該区分所有者の氏名が把握できたとしても,プライバシーが違法に侵害されたとはいえないとした。

3 コメント

 マンション管理組合は、区分所有の対象となる建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うために設置される団体であることから(区分所有法3条、30条1項)、これと関係のない自治会費や町内会費の徴収等について管理規約に定め、これを徴収することはできません(東京簡判平成19年8月7日)。
 本事案は、コミュニティ費が区分所有者間の懇親パーティーに支出されているが、その懇親パーティーがマンションの治安維持に役立ち、マンションの資産価値の低下を防ぐという効果があると評価できることから、管理に関するものであると評価して区分所有法3条、30条1項に反しないと判断しています。
 なお、東京地判令和3年9月29日は、地方自治法260条の2第1項の地縁による団体の認可を受けた団体に対する支払分(会費)について、管理規約に定めて区分所有者から徴収することについて適法としました。これは、同団体が集会室等を区分所有して管理し、総会用の会議場として無償で貸し出したり、区分所有者に安価に貸し出したりするなどしていたことから、町会費や自治会費とは異なり、区分所有の対象となる建物並びにその敷地及び付属施設の管理、使用に関するものと判断したものと考えられます。
 本事案のような区分所有者と管理組合の紛争では、総会資料の記載事項やマンション内掲示板での告知等に関し、区分所有者側から名誉棄損やプライバシー侵害の主張がされることがあります。総会で決議をとるためには事実関係の説明が必要ですので、総会資料での事実説明が違法と評価される可能性は低いですが、その内容によっては違法と評価される可能性も否定できませんので、記載内容が個人情報については慎重に行うべきと考えます。