管理費滞納に対する管理組合による請求について

 管理費等は、区分所有法に明確な定義や根拠規定はありませんが、区分所有法19条が区分所有者は「その持分に応じて、共用部分の負担に任じ」と規定しており、区分所有法30条1項が建物管理等に関する区分所有者相互の事項を規約で定めることができるとしているので、最終的には管理規約や管理に関する総会の決議(区分所有法18条1項本文)を根拠に管理組合が滞納をしている区分所有者に対して支払いを求めることになります。
 そして、滞納管理費の請求は、実際に滞納をした区分所有者に対して行うことになりますが、専有部分が転々譲渡された場合もその後の取得者に対しても請求することができます(区分所有法8条、東京地判平成9年6月26日・判時1634号94頁、大阪地判平成21年3月12日・判タ1326号275頁)。また、専有部分を譲り受けた者だけでなく、これが競売となった場合も同様に実際に滞納した区分所有者に対しても譲受人に対しても請求することができます(前記東京地判平成9年6月26日、東京地判平成25年6月25日)。この場合の滞納した者とその後に専有部分を取得した者との間の関係は、不真正連帯債務の関係となり、その負担割合は元々の滞納者が全て負担すべきと考えられます(東京高判平成17年月30日)。なお、管理規約に滞納者に対して違約金として弁護士費用を加算して請求する旨の規定がある場合がありますが、この場合は、弁護士費用として相当額を請求することができます(東京地判平成25年11月13日、東京高判平成26年4月16日・判時2226号26頁)。
 上記のような管理組合からの請求に対して、滞納者(承継人含む)から、管理費を定める管理規約が区分所有法30条3項の定める区分所有者間の衡平の趣旨に反し無効であるとの反論や自己が負担した共有部分の管理に関する費用との相殺が主張される場合あります。
 前者の裁判例としては、インターネットを利用していなかった者がインターネット利用料を含んだ管理費を定めた規定が無効であると争った事案(平成24年11月14日・判時2178号46頁)や1階の専有部分の所有者がエレベーター等を利用していないとしてその保守費用等について争った事案(東京地判平成12年9月29日、札幌地判平成14年6月25日、東京地判平成5年3月30日・判時1461号72頁(一部共有を争った事案))などがありますが、いずれも管理費の請求を認めました。なお、インターネット利用料を含んだ管理費請求の事案については、その負担額が高額でなく、こうしたサービスがマンションの価値を高めている等の理由で合理的と判断していますので、その負担額が高額となれば規約が無効とされる可能性もあります(東京地判平成27年12月17日・判時2307号・150頁)。
 後者の裁判例としては、共用部分の樹木の剪定作業を管理組合に代わって行った者が、管理費用と剪定作業費用の相殺を主張した事案で、裁判所は「管理費等拠出義務の集団的、団体的な性質とその現実の履行の必要性に照らすと、マンションの区分所有者が管理組合に対して有する金銭債権を自働債権として管理費等支払義務を受働債権として相殺し管理費等の現実の拠出を拒絶することは、自らが区分所有者として管理組合の構成員の地位にあることと相容れないというべきである」として、性質上相殺が許されないと判断しました(民法505条1項但書)。
 なお、管理規定の設定、変更、廃止について、区分所有法30条1項が「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と規定していることから、規定を変更して、一定の者に新たな負担金を課す場合に承諾の要否が争いとなることがあります。この点について、最判平成10年10月30日は、「規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らし、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される」と判断基準を示しています。この点に関する具体例としては、専有部分を所有しながら居住しておらず管理組合の業務を分担していない者に対して月額2500円の住民活動協力金を課すという管理規約変更について、受忍限度を超えるものではないと判断しましたものがあります(最判平成22年1月26日)。