管理費滞納者の相続財産管理人が、滞納管理費請求にかかる弁護士費用を滞納者から徴収可能とする規約改正の総会決議は相続財産管理人の同意がなく無効であると主張して争った事案(東京地判令和3年11月16日)

1 事案の概要

 本件は、マンション管理組合が、同マンションの区分所有者(相続財産)が管理費等の支払を滞納していたところ、同マンションの改正後の管理規約上、「違約金としての弁護士費用」を請求することができると規定されており、管理組合が相続財産管理人に対し、上記管理規約の規定に基づき、「違約金としての弁護士費用」及び遅延損害金の支払を求めた事案。

2 裁判所の判断

1)規約改正のための総会の招集通知が相続財産管理人に通知されなかった手続的瑕疵について

 組合員および議決権の出席状況並びに出席者が全会一致で規約改正を承認されたことを踏まえ、同決議に反映されなかった議決権等の割合が僅少であり、その瑕疵を理由として決議をやり直させる実益に乏しいとして、招集通知の欠缺は直ちに集会決議の無効をもたらすものではないとした。

(2)規約改正が区分所有法31条1項後段の一部の承諾が必要かについて

 規約改正が、一部の組合員を対象とするものであり、かつ、その内容からして、対象となった個別の組合員に過酷な義務を課するものであるときは、建物の区分所有等に関する法律31条1項後段の「一部の区分所有者」の「承諾」が必要となるものと解されるとした上で、①規約改正後の管理費等の滞納に係る弁護士費用を違約金として徴収することは、全組合員(区分所有者)を対象とするものであるから、相続財産管理人の「承諾」がないことは集会決議の無効をもたらすものではないしたが、②規約改正前に既に生じていた管理費等の滞納に係る弁護士費用を違約金として徴収することは、形式的には全組合員(区分所有者)を対象とするかのようであっても、実質的には、既に滞納をしていた原告ら一部の組合員(区分所有者)を対象とするものであり、かつ、債務不履行に対する制裁を遡及的に重くするものであるから、対象となった個別組合員に過酷な義務を課するものといえるとして、その「承諾」はないのであるから、規約改正前に既に生じていた管理費等の滞納に係る弁護士費用を違約金として徴収するとの決議部分は無効であるとした。

3 コメント

 管理規約の変更は、区分所有者及び議決権の4分の3以上の集会の決議があれば可能ですが、規約の変更により一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすときは、その者の承諾を得なければならないとされています(区分所有法31条1項)。そこで、管理規約を変更して新たに制限を設けようとする場合、制限を受ける区分所有者が、「一部の区分所有者の権利に影響を及ぼす」場合に当たることから当該区分所有者の承諾のない管理規約変更決議は無効である等と主張して管理組合と争いとなることがあります。ここでいう「一部の区分所有」とは、まさに区分所有者の一部のことをいい、区分所有者全体に一律に影響を及ぶ場合は含みません。また、「特別の影響」とは、規約変更の必要性・合理性と、これにより影響を受ける一部の区分所有者の不利益とを比較衡量し、一部の区分所有者に受忍限度を超えるような不利益が生じると認められる場合解されています。