マンションの住人による迷惑行為への対応について
マンションの住人による迷惑行為が行われた場合、その対応が問題となる場合がありますが、区分所有法6条が「区分所有者は建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてならない」と規定しており、これらの義務に違反した者に対しては、行為の停止の請求(同法57条)、使用禁止の請求(同法58条)、区分所有権の競売の請求(同法59条)、占有者に対する契約の解除及び引渡し請求(同法60条)をすることができると定めています。法が定める上記請求の主体は、行為者以外の区分所有者の全員または管理組合法人ですが、行為者以外の区分所有者が個々に自己の物権(区分所有権、共用部分の共有持分)や人格権に基づいて個別に行為の停止や損害賠償請求を行うことも可能です。
行為の停止請求は、訴訟外で行うこともできますが、訴訟を提起する場合は集会の普通決議が必要となります。停止請求に関する裁判例としては、管理規約に反して専有部分を区切ってシェアハウスとして利用していた事案(東京地判平成27年9月18日)、専有部分で午前3時頃までカラオケの営業を行っていた事案(東京地決平成4年1月20日(仮処分))、専有部分で託児所を経営しトラブルを起こしていた事案(東京地判平成18年3月30日)、専有部分で居酒屋を経営し、排気ダクトを設け、深夜まで営業していた事案(神戸尼崎支判平成13年6月19日)などでは、共同の利益に反する行為であるとして停止請求(事案によっては一部)が認められています。なお、区分所有法6条の「共同の利益に反する行為」とは、「当該行為の必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の態様、程度等の諸事情を比較考量して決すべきものである」と解されています(東京高判昭和53年2月27日)。
以上に対し、使用禁止請求、競売請求、占有者に対する契約の解除及び引渡し請求は裁判による必要があり、事前に当事者に弁明の機会の付与、総会の特別決議も必要となります。そして、使用禁止請求や占有者に対する契約解除及び引渡し請求は、行為の停止請求では障害を除去できないような場合でなければ認められず、競売請求は、行為の停止請求や使用禁止請求、区分所有法7条による先取特権に基づく競売請求ではその障害を除去できないような場合である必要があります。なお、実際に全ての請求を経なければ競売請求をできない訳ではありません。
使用禁止請求については、専有部分に大量のごみを放置し異臭やゴキブリを発生させ、一度成立した和解に基づく義務も履行しない事案で請求が認められました(東京地判平成23年1月25日)。一方、管理費の滞納事案では、使用禁止により滞納が解消されるものではないとして使用禁止請求を否定したものがあります(大阪高判平成14年5月16日)。
競売請求については、暴力団事務所として使用していた事案(東京地判平成25年1月23日)や異常行動が著し事案、管理費の滞納期間が長期で滞納額が高額の事案(東京地判平成19年11月14日)等で認められています。
占有者への契約解除及び引渡し請求については、占有者が長年、ベランダで鳩の餌付け、飼育を行い、これにより糞等の被害が生じているにもかかわらず話し合いも拒否していた事案(東京地判平成7年11月21日)等で所有者との賃貸借契約の解除と専有部分の引渡しを認めました。なお、当該専有部分の引渡を受けた原告(行為者以外の区分所有者の全員または管理組合法人)は、遅滞なく当該専有部分の所有者に引き渡さなければなりません。