マンションの敷地の一部である斜面地が崩落した事故に関し,マンション住民及び管理組合に対するマンションの販売会社,設計会社及び販売代理店の不法行為責任を否定した一方で,マンション管理会社の不法行為責任を認めた事案(横浜地判令和5年12月15日)
1 事案の概要
マンション敷地の斜面の一部が崩落し,市道を通行中の高校生が死亡した事故が発生し,管理組合とマンション住人が,崩落部分の復旧工事費用や死亡事故によるマンション価値の下落分についてマンションの販売会社,設計会社,販売代理店,マンション管理会社に不法行為責任に基づく損害賠償請求をした事案です。
主たる争点は,①被告各社が不法行為責任を負うか,②マンションの価値下落があるかです。
2 裁判所の判断
前提として,マンション販売会社が,マンション建設前に地質調査の専門業者に対してマンションの敷地の地質調査を依頼し,その調査結果報告書が存在していた。
(1)販売会社の責任の有無について
報告書は,本件斜面地には風化により強度が低下している部分があることや,落石防護工による対策を推奨していることを示しているものの,斜面保護工(モルタル吹き付け工)については,本件斜面地の樹木の全面除去を行う場合と明記しているので,本件報告書からは,植生の適正な維持管理により風化を防止することができることをいうものと理解できる。
したがって,原告らが主張する本件斜面地の風化対策の必要性は,本件報告書の記載内容からは読み取れないので,本件報告書の内容を前提として,被告販売会社に条理上の風化対策を行う義務が生じる旨の主張は採用できない。
また,本件斜面地の植生の維持管理は,管理組合又は管理会社の管理によってなされることが通常期待されているので,マンションの分譲販売する際に本件斜面地についての報告書の内容について説明すべき義務があったとは認められないし,宅地建物取引業法35条1項の重要事項に該当するとも認められない。
更に,販売会社は,報告書を,被告管理会社を通じて管理組合に対し引き渡しているのであるから,販売会社に責任はないといわざるを得ない。
(2)代理店の責任の有無について
販売代理店が本件報告書記載の本件斜面地の状況を知っていたとは認められないので,説明義務は認められず,責任はない。
(3)設計会社の責任の有無について
報告書の内容は,本件斜面地について,地盤が軟弱であることから崩落の危険性があることをいうものではなく,風化により強度が低下しているところがあるものの,植生の維持管理をすることによって斜面保護工(モルタル吹き付け工)までの必要性はないことをいうものであるから,報告書の内容によって,調査や風化対策をとるべき必要性は認識できない。また,マンションの設計監理の委託内容として,斜面地について原告らが主張する動的コーン貫入試験や弾性波探査を行うなど安全性を確保するための調査を実施した上,斜面地につき風化対策をとる義務が含まれていると解釈できる法規上,契約上の根拠もない。
(4)管理会社の責任の有無について
管理会社は,販売会社,当初購入者ら及び管理組合から,斜面地の管理を受託する管理会社として指定されており,その管理契約の内容についてもマンションの管理に必要なものとするように委ねられていた。また,管理会社は,販売会社から,斜面地の植生が安定保護のために必要であり,定期的な維持管理が必要である旨記載された書面を受領しており,その内容を確認することは容易であった。更に,管理会社は,販売会社から,斜面地の植生が安定保護のために必要であり,定期的な維持管理や本件斜面地の点検が必要であることが理解できる報告書を受領しており,その内容を確認することは容易であった。以上から,管理会社は,条理上,管理組合に対して,斜面地の崩落防止のための助言を行うべき義務及び斜面地の安定保護を損なうような行為を避ける義務を負っていたと認められる。
管理会社は,上記義務を負っていたにもかかわらず,書面及び報告書の内容を確認しないまま,管理委託契約の内容を決定して管理組合との間で管理委託契約を締結し,斜面地の管理は業務の対象外との認識の下,従業員をして管理業務も助言も行わず,斜面地の安定保護を意識することなく樹木の伐採や除草作業を行っていたことが認められるので,上記義務に違反したものというほかなく,不法行為責任は免れないというべきである。
(5)マンションの価値下落について
復旧工事がなされていることから,マンションの価値下落の損害はない。
3 コメント
原告は,専門家による風化対策の必要性について意見書を提出しましたが,裁判所は,販売会社がマンション建設前に取得した報告書の内容を前提に,販売会社の責任の有無について判断をしています。販売会社が取得した報告書自体が信頼できる会社の報告書であったことから,やむを得ない判断であると考えます。
また,本件は,斜面の崩落により一人が死亡していますが,復旧工事がなされたことによりマンション価値の下落はないとしました。復旧,修繕がなされれば財産的損害は回復されたとして,それ以上の損害を認めないというのは一般的な流れと考えます。
(2025.4.6)