企業が労働基準法114条に定める付加金を支払うべき時期について

 労働基準法114条は、使用者が①解雇予告手当が支払わない場合(同法20条)、②休業手当を支払わない場合(同法26条)、③割増賃金を支払わない場合(同法37条)、④年次有給休暇の賃金を支払わない場合(同法39条)に、裁判所が、労働者の請求により、使用者が支払わなければならない未払金に加え、これと同一額の付加金の労働者への支払を命ずることができる旨定めています。したがって、判決が確定して初めて付加金の支払い義務が生じます(遅延損害金も判決確定日の翌日から発生します)。 

 そして、付加金の支払義務の発生については、最判平成26年3月6日が「労働基準法114条の付加金の支払義務は、使用者が未払割増賃金等を支払わない場合に当然発生するものではなく、労働者の請求により裁判所が付加金の支払を命ずることによって初めて発生するものと解すべきであるから、使用者に同法37条の違反があっても、裁判所がその支払を命ずるまで(訴訟手続上は事実審の口頭弁論終結時まで)に使用者が未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したときには、もはや、裁判所は付加金の支払を命ずることができなくなると解すべきである(最高裁昭和三〇年(オ)第九三号同三五年三月一一日第二小法廷判決・民集一四巻三号四〇三頁、最高裁昭和四八年(オ)第六八二号同五一年七月九日第二小法廷判決・裁判集民事一一八号二四九頁参照)」と判示しました。本判決が引用している判例は、第一審の審理中に未払金の支払いをした事案でしたが、本判決は、控訴審の審理中に未払金(遅延損害金含む)を支払った事案です。

 つまり、使用者が付加金の支払いを免れるためには、事実審の口頭弁論終結前までに付加金の前提となる残業代等の未払金を労働者に支払う(又は供託)必要があります。第一審の判決で付加金の支払いを命じられた場合は、控訴を提起し、労働者に対して未払金を支払った(又は供託)上で、控訴審で抗弁として支払いを主張、立証する必要があります。第一審判決が確定する前に支払ったとしても、控訴をしなければ事実審の口頭弁論終結後の支払いとなるので、付加金の支払い義務は生じることになるので注意が必要です(東京地判平成28年10月14日)。 

 上記平成26年最判は、使用者が残業代の支払いをしたことにより労働者が残業代請求についての訴えの取り下げた事案であり、同様に事実審の口頭弁論終結前に残業代等の支払いをして付加金が否定された事案も、控訴審では残業代等について争っていませんので、残業代等を支払いながらも控訴審で積極的に争った場合は異なる判断となるかもしれません。また、仮執行宣言に基づく強制施行などが行われた場合は上記判例の射程外と考えられます。

 なお、付加金の請求に関し、最判平成27年5月19日は、「労働基準法114条の付加金の請求については、同条所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされるときは、民訴法9条2項にいう訴訟の附帯の目的である損害賠償又は違約金の請求に含まれるものとして、その価額は当該訴訟の目的の価額に算入されないものと解する」と判示しました。つまり、未払金の請求と一緒に付加金を請求する場合は、付加金の額は訴訟物の価額に参入する必要はありません。