区部所有者が管理組合の承認を得ずに窓に換気口を設置した事案で,管理組合による原状回復請求を認め,訴訟のための弁護士費用を認めなかった事案(東京地判令和5年12月21日)
1 事案の概要
本件は,マンションの管理組合の管理者が,管理組合に無断で共用部分である窓及び窓枠に換気口を設置した区分所有者(中華料理店営業)に対して,換気口の撤去(区分所有法57条1項)と訴訟のための弁護士費用を求めた事案です。
主たる争点は,①換気口設置行為が区分所有法6条1項の「共同の利益に反する行為」に当たるか,②管理規約に基づき弁護士費用を請求できるかである。
2 裁判所の判断
(1)①について
換気口設置行為は,管理組合の承諾なしに共用部分に給排気を新設するものであるから,換気口設置行為は,管理規約の細則及び管理規約に反する共用部分の無断変更行為である。このことに加え,被告らは管理組合から原状回復を何度も求められたにも関わらずこれに応じてこなかったこと,換気口設置行為を契機にマンションの住民から臭気についての苦情が出ていることも併せ考えれば,中華料理店の営業のためには何らかの換気口が必要であることを考慮したとしても,換気口設置行為は「共同の利益に反する行為」(法6条1項)に該当すると認めるのが相当である。
なお,本件では,臭気の程度については客観的な証拠がないためこれが受忍限度を超えるとは認められないが,少なくとも上記の共用部分の無断変更行為によって,これまで生じていなかった臭気が生じるようになったことは認められるのであるから,これが「共同の利益に反する行為」を基礎づける一つの事情として考慮することはできるというべきである。
(2)②について
管理規約には,「区分所有者が,この規約,使用細則等若しくは総会の決議に違反したとき又は区分所有者若しくは区分所有者以外の第三者が敷地及び共用部分等において不法行為を行ったときは,理事長は,理事会の決議を経て,その差止め,排除若しくは原状回復のための必要な措置又は費用償還若しくは損害賠償の請求を行うことができる。」と定めているのみであって,訴訟追行についての弁護士費用を請求の相手方の負担とするとは定めていないから,本件規約64条3項から直ちに被告らが弁護士費用を負担するとは認められない。
なお,同条項は「費用償還」の請求ができる旨を定めているが,本件規約違反や本件細則違反は不法行為に当たる例外的な場合を除き債務不履行にすぎないから弁護士費用を負担させることは通常できないのであるから,これを管理規約によって負担させるのであれば,違約金として弁護士費用を負担させる旨の明確な規定が必要であると解される。同条項の「費用償還」に「弁護士費用」が含まれるとは一義的に読み取れないことに照らせば,同文言を根拠に弁護士費用を負担させることができるとは認められない。したがって,本件規約に基づく弁護士費用の支払請求は認められない。
3 コメント
区分所有法6条1項の「共同の利益に反する行為」に当たるか否かは,その行為の必要性の程度,これによって他の区分所有者が被る不利益の態様,程度等の諸事情を考慮して判断すべきと解されており,本件もこの判断基準に基づき「共同の利益に反する行為」としたが妥当な判断だと考えます。区分所有法57条1項は,共同の利益に反する行為の停止や結果の除去,予防措置についての請求を規定していますが,本件は結果の除去(原状回復請求)を認めました。
一方で,弁護士費用についての請求は認められませんでした。訴訟において,弁護士費用についての請求が認められるのは,不法行為の場合で債務不履行の場合は認められない場合が多いです。本判決もこの点について触れ,管理規約の文言が訴訟における弁護士費用も請求できるか不明確であるとして請求を認めませんでした。管理規約には、弁護士費用も違約金として請求できるよう明確に定めておくべきです。
(2025.4.6)