取締役の選任と解任について
1 取締役の選任
会社成立後の取締役は、株主総会の普通決議(議決権を行使できる株主の過半数(3分の1以上と定款で定めた場合はそれ以上)出席し、その議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合はそれ以上))により選任されます(法329条1項)。ただし、同一の総会で2人以上の取締役を選任する場合は、取締役の選任について議決権を行使できる株主は、定款に別段の定めのある場合を除いて、会社に対して累積投票の方法で選任すべきことを請求することができます(法342条1項)。累積投票とは、株主は1株または1単元株について選任する取締役の数と同数の議決権を有し、選任したい取締役にその議決権を集中して投票することができる制度です。これは少数株主の代表者を取締役に選任することができるようにする制度です。累積投票制度を採用した場合は、多数の票を得た者から順次選任されることになります(法342条2項、3項)。
なお、代表取締役の選任は、委員会設置会社を除く取締役会設置会社では、取締役会決議(過半数以上の取締役が出席し、その過半数)により取締役会の中から選任され、解職もされます(法362条2項3号)。取締役会非設置会社では、定款の定め、定款の定めに基づく取締役の互選、株主総会の普通決議により定められます。
2 取締役の解任
取締役の解任は、株主総会の普通決議で行われます(法341条1項)。ただし、累積投票制度で選任された取締役の解任は、特別決議(議決権を行使できる株主の過半数(3分の1以上と定款で定めた場合はそれ以上)出席し、その議決権の3分の2以上(これを上回る割合を定款で定めた場合はそれ以上))となります(法309条2項7号)。ただし、取締役を解任する正当な理由がない場合は、取締役は会社に対して損害賠償請求することができます(法339条2項)。この会社の損害賠償責任は法定責任と解されています。そして、「正当な理由」とは、会社・株主の利益と取締役の利益の調和の上に決せられることになり、裁判例では、取締役に職務を執行させるにあたり障害となるべき状況が客観的に生じた場合、会社において取締役としての職務を執行させることができないと判断するやむを得ない客観的、合理的な事情が存在する場合とされており、株主と取締役の感情的な対立等の主観的な事情は除かれます。具体的には、心身の故障や法令定款違反行為、職務への著しい不適任などが挙げられます。経営判断の失敗が正当な理由となりうるかについては争いのあるところですが、経営判断の失敗が善管注意義務違反とならないような場合は正当な理由があるとは言えないと考えられます。いずれにしても、軽微な法令違反や軽度の不適切行為等では正当な理由とはならないものと考えられます。
なお、取締役解任を議題とする株主総会の招集に関する取締役会決議において、解任される取締役が特別利害関係人として決議に参加できるか否かが問題となりますが(法369条2項)、東京地決平成29年9月26日は、「対象取締役は,取締役会において自己の解任議案が株主総会に提出されるか否かが決定される以上,自己の身分に係る重大な利害関係を有することは明らかであって,会社に対して負担する忠実義務に従い,公正に議決権を行使することは必ずしも期待しがたく,むしろ自己の利益を図って議決権行使することも否定できない。そうだとすると,忠実義務違反を予防し,取締役個人と会社との間の利害対立を事前に防止するために,対象取締役は,議決に加わることができないとすることが相当である」として、解任対象の取締役を取締役会決議から排除したことについて問題ないとしました。
取締役の解任決議が株主総会で否決された場合、一定の少数株主は、当該株主総会の日から、30日以内にその取締役の解任を裁判所に対し請求することができます(法854条)。