懲戒解雇と失業保険、解雇予告手当の関係について
1 懲戒解雇と失業保険について
懲戒解雇された場合も失業保険は受給できますが、重責解雇(重大な理由による解雇)となる場合は、失業保険の受給について一定の制限が生じます。なお、離職票には、重責解雇の選択肢があります。
重責解雇とは、以下の場合をいいます(雇用保険に関する業務取扱要領52202(2))。
(1)刑法各本条の規定に違反し、又は職務に関連する法令に違反して処罰を受けたことによって解雇された場合
(2)故意又は重過失により事業所の設備または器具を破壊したことによって解雇された場合
(3)故意又は重過失によって事業所の信用を失墜せしめ、又は損害を与えたことによって解雇された場合
(4)労働協約又は労働基準法(船員については、船員法)に基づく就業規則に違反したことによって解雇された場合(解雇予告除外認定を受けた場合)
・極めて軽微なものを除き、事業所内において窃盗、横領、傷害等刑事犯に該当する行為があった場合
・賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす行為があった場合
・長期間正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
・出勤不良又は出欠常ならず、数回の注意を受けたが改めない場合
(5)事業所の機密を漏らしたことによって解雇された場合
(6)事業所の名をかたり、利益を得又は得ようとしたことによって解雇された場合
(7)他人の名を詐称し、又は虚偽の陳述をして就職をしたために解雇された場合
そして、失業保険の給付を受けるには、重責解雇以外の解雇の場合は、離職前1年間の被保険者期間が6カ月以上あれば足りますが、重責解雇となった場合は、原則、離職前2年間の被保険者期間が12カ月以上あることが必要になります。また、重責解雇以外の解雇の場合は、7日間の待機期間が経過すれば失業保険を受給することができますが、重責解雇の場合は、7日間の待機期間に加えて、3カ月の給付制限期間を経過しなければ失業保険を受給することができません。そして、失業保険の給付日数についても、重責解雇以外の解雇の場合は、年齢と雇用保険の加入期間に応じて90日から330日とされていますが、重責解雇の場合は、雇用保険の加入期間に応じて90日から150日とされ、給付日数の上限が短くなります。
3 懲戒解雇と解雇予告手当について
懲戒解雇の場合も解雇ですので、原則として解雇予告手当の支給が必要となります。もっとも、解雇理由が①天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能な場合、②労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合には、労働基準監督署の除外認定を受けることにより、解雇予告手当の支給が不要となります(労働基準法20条2項)。
ここでいう「労働者の責めに帰すべき事由」とは、厚生労働省の通達に以下の事由が例示されており、懲戒解雇事由とイコールではありません。
(1)原則として、極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑事犯に該当する行為のあった場合、また一般的にみて「極めて軽微」な事案であっても、使用者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなお労働者が継続的に又は断続的に盗取、横領、傷害等の刑法犯又はこれに類する行為を行った場合、あるいは事業場外で行われた盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為であっても、それが著しく事業場の名誉もしくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合。
(2)賭博、風紀の乱れ等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合。また、これらの故意が事業場外で行われた場合であっても、それが著しく事業場の名誉もしくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合
(3)雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合
(4)他の事業場へ転職した場合
(5)原則として二週間以上正当な理由もなく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
(6)出勤不良又は出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合
そして、除外認定の手続きは、解雇予告除外認定申請書に必要時効を記入し、必要書類とともに労働基準監督署長へ提出します。必要書類としては①被申請労働者の生年月日、雇入年月日、職種(名)、住所、連絡先等が明らかになる資料(被申請労働者の労働者名簿)、②申請に係る「労働者の責に帰すべき事由」が明確となる疎明資料(事由の経緯について時系列に取りまとめた資料、被申請労働者の「労働者の責に帰すべき事由」の自認書、本人の署名・押印のある顛末書等、懲罰委員会など懲戒処分関係の会議の議事録、新聞等で報道された場合はその記事の写し等)、③就業規則(解雇・懲戒解雇等の該当部分)、④解雇通知をしている場合は、解雇予告日及び解雇日が分かる書面とされています。
除外認定は、事前に認定を受けるのが原則ですが、行政解釈では、認定されるべき事実がある場合には、使用者は有効に即時解雇をなし得るものと解されるので、即時解雇の意思表示をした後、解雇予告除外認定を得た場合は、その解雇の効力は使用者が即時解雇の意思表示をした日に発生すると解されるとしています。
なお、懲戒解雇に該当する事実関係が認められる場合も、本人の反省状況等を踏まえ、懲戒のレベルを引き下げて、諭旨退職とする場合もあります。諭旨退職とは、労働者に退職届等の提出を求め、これを提出した場合は解雇ではなく退職扱いとし、退職届等が提出されない場合に懲戒解雇とするものです。退職届等の提出による退職であることから、解雇予告手当は不要とも考えられますが、あくまでも懲戒処分であり、退職届等が出されなければ懲戒解雇とされることから、労働者の自由意志に基づく退職と同様に扱ってよいかは検討が必要です。