求人及び採用時に注意すべき点について

1 募集について
  企業が労働者を募集する場合、自社のHPに求人情報を掲載したり、求人サイトやハローワークを利用することが多いと思いますが、求人の際には募集要項や求人票等に労働条件を明する必要があります(職業安定法第5条の3)。明示する労働条件は、①業務内容に関する事項、②契約期間に関する事項、③試用期間に関する事項、④就業場所に関する事項、⑤始業終業時刻、休憩時間、時間外労働、休日、時間外労働に関する事項、⑥賃金に関する事項、⑦加入保険に関する事項、⑧募集者の氏名又は名称、⑨受動喫煙防止措置に関する事項(派遣労働者として雇用する場合は、雇用形態)です。これらについてスペース等の関係から全て明示できない場合は、その旨記載しておくことが必要です。その場合も、原則として、企業が求職者と最初に接触する時点までに全ての労働条件を明示する必要があります。そして、当初明示した労働条件が変更される場合は、速やかに求職者に知らせる必要があります。 なお、詳細については、厚生労働省職業安定局作成の「募集・求人業務取扱要領」が参考になります。

2 採用について
  労働者の採用に当たっては、募集要項を見て応募してきた求職者と面接をして採否を決めることになる訳ですが、採用に際しても留意点があります。そもそも、企業には、採用方針や採用基準等について採用の自由を有していますが、法律等により一定の制限があります(最判昭和48年12月12日)。法律の制限としては、障害者雇用促進法により障害者差別の禁止と合理的配慮の提供が義務付けられ、男女雇用機会均等法で性別による差別が禁止されています(平成18 年厚生労働省告示第614号参照)。また、労働政策総合推進法により一部の例外を除き年齢による差別が禁止されています。その他にも労働組合法、派遣法等による一定の制限があります。
  更に、人種・信条・性別・社会的身分・門地などによる不当な差別が行われた場合は不法行為として損害賠償請求の対象となる可能性があります(なお、上記最判は、思想、信条を理由とする不採用を当然に違法とすることはできないとして、具体的事案において違法性ないとしました)。また、何ら合理的理由なく思想信条や病歴等に関する事項について質問すること自体が不法行為として損害賠償の対象となることもありますので注意が必要です(東京地判平成15年6月20日)。
  そして、採用のために収集した個人情報についても適切な管理が必要となります(職業安定法第5条の4、個人情報保護法)。
  なお、採用活動において注意すべき点については、厚生労働省作成の「公正な採用選考をめざして」が参考になります。

3 労働契約締結について
  上記採用面接を経て、実際に採用を決定した場合、労働契約を締結することになりますが、労働契約の締結に際し、企業は労働者に対して賃金・労働時間その他の労働条件を明示する義務があります(労基法第15条1項)。明示すべき労働条件については、労働基準法施行規則第5条1項に規定されています。なお、一部の労働条件については書面による明示が義務付けられています。 そして、労働契約締結の際に問題となりうるのが、募集時に明示された労働条件と実際の労働条件が異なる場合です。求人広告等は労働者からの契約の申込みを誘引するものと解されていますので、労働者が募集に応じて申込をしたからといって直ちに募集時の労働条件が労働契約の内容となる訳ではありません。もっとも、募集時に明示された労働条件が変更されることなく労働契約が締結された場合、募集時の労働条件で労働契約が締結されたものと判断される可能があるので注意が必要です(東京高判昭和58年12月19日、大阪地判平成10年10月30日参照)。したがって、募集時と異なる労働条件で労働契約を締結する必要がある場合は、その内容や理由を労働者にしっかりと説明した上で契約を締結しなければなりません。なお、説明が不十分であった場合、損害賠償請求が認められる可能性があります(東京高判平成12年4月19日)。