管理監督者の適用除外について

1 はじめに
 「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)は、労働時間、休憩及び休日に関する規定について適用が除外されています(労基法41条2号)。これにより、管理監督者については、休日出勤や時間外労働による割増賃金を支払う必要はありません。ただし、深夜残業による割増分(25%)については支払う必要はあります。なお、所定賃金中に深夜割増賃金相当分が含まれている場合(事前合意)は適法とされています。この合意が適法であるというためには、所定賃金中に深夜割増賃金部分を明示し(何万円分、年時間分等)、その他の性質を有する対価部分との区別を明らかにする必要があります。

2 管理監督者の行政解約
 管理監督者とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものであるとしています。そして、これらの職制上の役付者のうち、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として法第41条による適用の除外が認められる趣旨であり、その範囲はその限りに限定しなければならないものであるとしています 。
 そして、その判断基準として、一般に、企業においては、職務の内容と権限等に応じた地位(以下「職位」という。)と、経験、能力等に基づく格付(以下「資格」という。)とによって人事管理が行われている場合があるが、管理監督者の範囲を決めるに当たっては、かかる資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があるとして、実態的判断が必要であるとしています。
また、管理監督者であるかの判定に当たっては、賃金等の待遇面についても無視し得ないものであるとして、定期給与である基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があるとしています。なお、一般労働者に比べ優遇措置が講じられているからといつて、実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではないこととしています(昭和22年9月13日付け発基17号、昭和63年3月14日付け基発150号)。
 なお、平成20年9月9日に「多店舗展開する小売業、飲食業の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」と題する通達が発せられています。

3 具体的な判断基準
 経営者と一体的な立場であるといえるためには、①実質的に経営者と一体的な立場にあると認めるに足るだけの重要な職務と責任、権限が付与され、②出退勤をはじめとする自己の労働時間の決定について裁量権を有し、③一般の従業員と比較してその地位と権限にふさわしい賃金上の待遇を受けていることが必要となります。
 上記①については、経営に関する決定への参画状況(企業の重要決定事項への発言力や影響力の有無や程度、企業の重要事項を決定する機関への参加の有無等)、実際の職務内容及び職責の重要性(経営計画、予算案への関与・度合等)、労務管理上の指揮監督権(部下の人事権限の有無・内容、勤務管理や待遇の決定権限の有無等)に基づき判断されます。
 上記②については、遅刻・早退による賃金減額ないし罰金が実施されているか、一般社員との交代勤務や一般社員に対するバックアップを義務付けられているかといた事情が重視されます。上記③については、社内における収入の順位、平均収入の下位職種との比較、金額そのものといった点が着目されます。また、支給されている管理職手当や役職手当の額が当該労働者の職務内容等からみて通常想定できる時間外労働に対する手当と遜色がない金額かという観点から検討も必要となります。

4 裁判例
(1)セントラルスポーツ事件(京都地判平成24年4月127日判決)
 同事件では、判断基準として、①職務内容が少なくとも、ある部門全体の統括的な立場にあること、②部下に対する労務管理等の決定権等につき、一定の裁量権を有しており、部下に対する人事考課、機密事項に接していること、③管理職手当等特別手当が支給され、待遇において時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、④自己の出退勤について自ら決定し得る権限があることが必要であるとしました。
 そして、対象者であるエリアディレクター(6店舗を担当)は、最上位の意思決定機関の経営会議に参加していませんでしたが、営業戦略会議には参加しており、一定程度の経営事項に関与していたといえ、また、人事考課や採用について最終決定権限を有していませんでしたが、一次考課や二次考課には担当しており、一定の役職についての昇進や異動の起案権限を有し、エリアの統括に必要な人材については一定の裁量を有しており、管理監督者ではない最上位の役職者に比べて大幅に高額である(副店長が100時間の残業をすると)として、管理監督者であるとしました。
 本裁判例は、ある部門全体の統括的な立場であればよく、経営方針の決定等への関与までは必要とするものではないと理解することができます。また、労務管理についても最終的な決定権限までは必要ないと理解することができます。

(2)コナミスポーツ事件(東京高範平成30年11月22日)
 管理監督者として、経営者と一体的な立場にある者かどうかを判断するに当たっては、損益管理、施設・設備管理、営業管理などの労務管理以外の事項に関する権限の広狭も踏まえて、労働時間等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有する立場にあったか否かを検討すべきであるとしました。
 その上で、対象者である支店長は、アルバイトの採用や解雇について最終的に人事部の決裁を受ける必要があり、労働時間の管理がタイムカードで行われており、労務管理以外の点では、プログラムの変更・新規導入、販売促進活動、施設・設備の修繕、備品の購入等について事前に直営施設運営事業部やエリアマネージャー等の上長の事前の承認が必要であったこと、日常的にフロント業務等のシフトに入っていたこと、十分な手当てが支給されていなかったことなどから、管理監督者には当たらないとしました。
 本裁判例は、管理監督者であるか否かについて、労務管理以外の事項の権限の広狭も踏まえて判断する必要があるとしていますが、セントラルスポーツ事件と同様に、企業の経営方針の決定等への関与が必須とされるものではないと理解できます。もっとも、労務管理については、担当する組織内については最終決定権限まで必要としている解しているように理解することもできます。

(3)アイグランホールディングス事件(東京地判令和4年4月13日)
 同裁判例では、管理監督者について、労務管理について経営者と一体的な立場にある労働者をいい、具体的には、①当該労働者が労働時間規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務や権限を担い、責任を負っているか否か、②労働時間に関する裁量を有するか否か、③賃金等の面において、上記のような管理監督者の在り方にふさわしい待遇がされているか否かという三点を中心に、労働実態等を含む諸事情を総合考慮して判断すべきであるとし、ここでいう経営者と一体的な立場とは、あくまでも労務管理に関してであって、使用者の経営方針や経営上の決定に関与していることは必須ではなく、当該労働者が担当する組織の範囲において、経営者が有する労務管理の権限を経営者に代わって同権限を所掌、分掌している実態がある旨をいう趣旨であることに留意すべきであり、その際には、使用者の規模、全従業員数と当該労働者の部下従業員数、当該労働者の組織規定上の業務と担当していた実際の業務の内容、労務管理上与えられた権限とその行使の実態等の事情を考慮するとともに、所掌、分掌している実態があることの裏付けとして、労働時間管理の有無、程度と賃金等の待遇をも併せて考慮するのが相当であるとしました。
 その上で、対象者である経理部長は、労務管理に関しては、その出退勤の事実確認をするのみで、割増賃金の支給等の決定権限は何ら有しておらず、部下の人事考課についても関与しておらず、労務管理以外の面においても、その所掌事務で独自の権限を有していたのは、経理事務のうち仕訳に関する点のみであり、他の従業員と同様、出勤簿による勤怠管理を受け、所定の始業時刻以前に出勤して業務を開始し、所定の終業時刻前に早退したのは1日のみで、給与についても労基法による労働時間規制の対象外としても保護に欠けないといえる待遇と評価することは困難であるとして、管理監督者であることを否定しました。
 本判決も企業経営全体への関与は重視していませんが、労務管理に関しては、担当する組織の範囲において、経営者が有する労務管理の権限を経営者に代わって同権限を所掌、分掌している実態がある必要があるとしています。ここでいう担当する組織の範囲において最終決定権限まで有している必要があるということであれば、上記コナミスポーツ事件と同様の判断基準になると考えられます。
  
4 小括
 上記のとおり、管理監督者であるか否かは、実態に基づき判断されることになりますので、役職によって決まる訳ではありませんが、主任、係長、課長や多店舗展開しているチェーンの店長等は認められない傾向にあり、部長職以上では判断が分かれています。

(2025.1.19)