設計監理を行う会社が発注者側の都合により一方的に契約を解除されたとして、履行部分に対する報酬を請求した事案(東京地判令和4年11月29日)

1 事案の概要

 本件は、建築の企画・設計・工事監理を主たる業務とする有限会社が、組合員の取り扱う医療資材、医療機器等の共同購入、組合員のためにする共同施設の設置及び管理運営等を行う組合設計課管理を行う会社に対し、主位的に、設計監理契約が設計管理業者の責めに帰することができない事由によって終了したとして、改正前の民法648条3項に基づき、既にした履行の割合に応じた報酬と遅延損害金を、予備的に、商法512条に基づき、相当報酬及び遅延損害金を事案である。
 主たる争点は、①設計管理契約の成否、②契約解除について設計管理業者側に帰責事由の有無、③出来高の評価である。

2 裁判所の判断

(1)設計管理契約の成否について

 発注者側が依頼のメールをしているが、理事会を経た後に正式決定をする旨の記載があり、報酬の額や支払方法等について具体的な協議も行われていないことから、メールの時点では設計監理契約の成立はしていないとした。
 一方で、両当事者の間で新築工事に関する打合せが繰り返し行われ、入居予定事業者や関係機関からのヒアリングなどを行われた上で、建物の平面図等を内容とする基本構想と題する書面が複数作成され、発注者に提出されていること、設計監理業者から発注者側代表者に建物に関する設計・監理業務についての注文書・請書案が提出され、発注者側の担当者から契約書を作成してほしいとの意向を受けて、設計管理業者が設計・工事監理業務の内容、同業務の期間、業務報酬の額、支払方法等について記載した注文書・請書の案を改めて作成し、発注者側の担当者ら送付していること、同注文書・請書の案の内容に対し、発注者側から何らかの異議が述べられていないこと、発注者側担当者から、契約がのびのびになっていて申し訳ないが、会議終了後だと落ち着かないので、改めたところできちんと落ち着いて契約したい旨のメールが送られていること、その後も、両当事者間で建物に関する打合せなどが行われていること等から、注文書・請書の内容により、建物についての設計監理契約が成立したものと推認することができるとした。

なお、建築を予定した土地が開発許可の必要な市街化調整区域であったことから、発注者側から、開発許可を受ける前に設計監理契約を締結することはないとの主張がなされたが、開発許可申請に当たっては、建築面積や延べ床面積を明記した予定建築物の平面図、立面図等の提出が求められていること等から、開発許可申請を行うためには、開発許可申請業務と設計業務とは並行して進めなければならないものであったとして、発注者側の主張を排斥した。

(2)契約解除について設計管理業者側に帰責事由があるかについて

 発注者側が複数の設計管理業者の帰責性を主張したが、証拠上、主張の事実が認められないとした。

(3)出来高の評価について

 まず、基本設計について、建築主との協議を行い、建築主の建築物に対する要求その他の諸条件を設計条件として整理し、法令上の諸条件やインフラ設備の状況等についての調査及び関係機関との打合せを経た上で、基本的な設計方針を策定し、同方針に基づいて設計図書を作成するとともに、概算工事費の検討や建築主への説明等を行う業務であると解されるとし、本件では、設計管理業者は、発注者や入居予定者と繰り返し打合せ等を行い、その要望等を聞き取った上で、各室リストや平面図等を内容とする基本構想と題する書面を複数作成し、その中で、各時点における被告や入居予定者の要望事項等を設計条件として整理しており、同基本構想の内容に関しては、打合せの中で、発注者側に説明、報告をしており、建築条件の調査等を行っているが、契約終了時点においても、建物の各室の配置や用途等については、未だ最終確定には至っておらず、引き続き、発注者らの要望等のヒアリングや図面の修正等が予定されており、設計管理業者が作成した基本構想においては、外装・内装の仕上げ、設備の性能目標及び仕様、耐震性能及び構造性能の目標や構造方法などについては盛り込まれておらず、立面図や断面図、工事費用についての概算見積書も添付されておらず、役所関係は一度訪問したにとどまり、建築確認申請の関係機関については、指定確認検査機関に一度架電し、一度訪問したにとどまる等として、設計管理業者の履行割合を基本設計業務の約40%とした。
 その上で、一般的に、設計監理業務全体の中での設計業務の割合が80%、そのうち基本設計の割合が29%とされているとし、契約金の額×80%×29%×40%の計算で出来高を算出した。

3 コメント

 設計管理契約や工事請負契約において、正式に書面で契約を締結する前に業務が進み始めることがあります。特に、設計業務の場合は、契約前の営業行為としての無償か、契約に基づく設計業務として有償かが争いとなることがあります。その場合、当事者間のやりとり、特に、業務の内容や報酬額等の契約の主要な部分が特定され、当事者間において確認されていたかが重要となります。本件では、これらの事実関係を詳細に認定し、契約の成立を認定しました。そして、出来高については、設計監理業務全体における基本設計の割合(設計業務80%、基本設計29%)を前提に、業者が実際に行った業務の割合を認定し(専門家調停委員が算定)、最終的な報酬額を算出しました。