請負業者が仕事の完成を主張し残代金を請求したのに対し、注文主が瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求等をした事案(東京地判令和3年1月13日)
1 事案の概要
本訴は、リフォームを請け負った業者が、注文主に対し、本工事及び追加工事の残代金及び遅延損害金を求めた事案。反訴は、注文主が請負業者に対し、契約に反した施工を行い、未完成部分、不具合部分、瑕疵部分が多数あり、また、請負業者が工事を遅延させたために賃料収入を失ったなどと主張して、契約不履行に基づく損害賠償請求権(債務不履行又は瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権を主張するものと解される。)に基づいて、損害賠償金及び遅延損害金を求めた事案。
2 裁判所の判断
(1)仕事の完成の有無及び本件残代金請求権の有無について
民法及び請負契約における解釈として、請負業者が注文主に残代金を請求するための要件としては、①請負業者が本件工事について予定された最後の工程を終了させ、②注文主が請負業者立会いのもとで工事完了検査を行い、③その後、補修することが社会通念上相当と思われる箇所(以下「指摘箇所」という。なお、許容限度の範囲内のものは含まない。)が存在しない状態になり、④正当な理由なく工事完了検査または完成確認書の提出を拒んだ場合に該当することが必要であるとした。
そして、本件では、予定した工事が終了しており、指摘箇所があったと認める証拠はなく、2度目の工事完了検査以降、当事者間では補修について折合いがつかず、請負業者が、請負業者において補修が必要であると判断した箇所とその補修方法を記載した文書を、それまで使用されていた注文主のメールアドレス宛に送信し、これに対する被告からの応答が2カ月なかったのであるから、注文者において正当な理由なく工事完了検査または完成確認書の提出を拒んだ場合に該当するとして、前記要件④も充足される、報酬請求可能とした。
なお、注文趣旨がメールを閲読したかは不明であるが、閲読することは可能であったといえ、それまでの当事者間の連絡方法の態様を考慮すると、請負業者において、注文主による当該文書の閲読を期待することには相応の合理的根拠があったというべきであるとして、注文主が実際に閲読したかどうかは関係ないとした。
(2)瑕疵について
瑕疵については、根太の不設置、床スラブの不陸、サッシのアングルピースの波うち、壁紙の浮き、しわ、凸凹等、巾木と床の隙間などが主張されたが、契約上の施工水準や一般的施工水準をもとに判断した。その結果、壁紙の凸凹は下地の不具合に由来するものがあると認められるところ、下地の補修について契約違反があったとは認められないとした。また、アングルピースは、経年劣化による歪みについて叩いて直すことがあり、その結果歪みが生じても機能上も美観上も問題ないとして瑕疵に当たらないとした。
(3)請負業者による解除の有効性について
瑕疵により目的達成不能ではないから瑕疵担保責任に基づく解除はできず、請負業者に債務不履行はないか(履行遅滞)ら債務不履行に基づく解除もできないとした。
(4)工期延長による債務不履行責任について
工期延長について請負業者に帰責事由はなく、請負業者の瑕疵担保責任と注文主の残代金の支払債務は同時履行の関係に立つので、瑕疵担保責任の履行が遅延したことについて請負業者は責任を負わないとした。
(5)損害について
修補費用については、直接工事費(材料費、労務費、水道光熱費等)に対して諸経費25パーセントと消費税8パーセントを認めた。また、調査費用として、実際の瑕疵該当性等も踏まえ3割相当額、弁護士費用として10%相当額を認めた。建物を賃貸できないことによる損害は、残代金請求と瑕疵修補又は損害賠償請求が同時履行の関係にあり、注文主から残代金の弁済の提供がないことから、瑕疵の補修又は損害の賠償が遅滞したことにより注文主に損害が生じたとしても,その遅滞については違法性が認められず、請負業者の賠償責任を認めなかった。なお、建物引き渡しの有無は結果を左右しないとした。
3 コメント
民法上、請負契約においては、仕事完成により報酬請求権が発生し、建物建築請負工事契約における仕事の完成とは、予定された最後の工程が終了したことを意味します。本件では、予定された最後の工程まで終了しており、契約及び約款で定められた要件も満たしているとして、請負業者による報酬請求権を認めました。そして、報酬請求と瑕疵修補又は修補に代わる損害賠償請求、報酬請求と建物引き渡しは同時履行の関係にあるとして、修補が遅延していることや引き渡しがないことについての損害賠償請求は認めていません。