建築請負工事の途中解約について
建築工事などの請負契約は仕事の完成に対して報酬を支払うことになりますが、諸般の事情で契約が途中で終了する場合があります。途中終了の理由としては、注文者が任意に解除する場合(民641条)、請負人の債務不履行を原因として解除する場合(民541条)などがあります。こうして、請負契約が途中で終了した場合も、工事が可分であり、当事者が既施工部分について利益を有するときは、特段の事情のない限り、既施工部分については契約を解除することができず、未施工部分について契約の一部を解除できるに過ぎません(最判昭和56年2月17日判時996号61頁)。同判例は、債務不履行解除について判断したものですが、これは、注文者の任意の解除の場合も同様と解されます。なお、注文者の責めに帰する理由により仕事の完成が不能となった場合は、請負人の報酬請求権は失われず、全額請求することができます(最判昭和52年2月22日)。もっとも、請負人は自己が債務を免れたことにより得た利益についてはこれを償還しなければなりません(民536条2項)。
そして、注文者による民法641条に基づく任意解除の場合、請負人は出来高に応じた報酬請求に加え、損害賠償請求をすることもできます。ここでいう損害とは、請負人が工事のために既に支出した費用や工事を完成したとすれば得たであろう利益(逸失利益)が含まれると解されます。請負人が既に支出した費用とは、未施工部分のために既に手配した材料費や人件費なども含まれます。なお、最判昭和56年2月17日判決は、未施工部分に関する逸失利益(未施工部分相当する報酬額から未施工部分を完成させるために必要な費用を控除した額)も請求できるとしています。
なお、注文者が任意解除した場合、請負契約書の損害賠償額の予定に基づき損害賠償請求される場合があります。この場合も、必ずしも注文者が契約書記載の損害賠償金を支払わなければならない訳ではありません。注文者が個人(事業者でない)の場合は、消費者契約法9条1項に基づき損害賠償額の予定に関する条項が無効となる場合があります。もっとも、この場合も損害賠償金を一切支払わなくて済む訳ではなく、民法641条に基づき現実に発生した損害は賠償しなければなりません。東京地判平成18年6月12日判決は、設計も始まっていなかった事案で、広告宣伝費等も損害に含めた会社側の主張を排斥し、10万円の限度で損害賠償を認めた。
債務不履行解除の場合は、請負人は出来高に応じた報酬請求が可能ですが、一方で、注文者から債務不履行に基づく損害賠償請求をされることになります。ここでいう損害は、工事の遅延による損害等が考えられます。
以上のように、請負契約が途中終了しても出来高に応じて報酬請求が可能な場合がありますが、この出来高を算定するためには、①工事内容の確定、②既施工部分の確定という作業が必要となります。②については、施工状況の写真、工程表、作業日誌、納品書、下請け業者の請求書等が資料となります。そして、出来高の算定については、①出来高割合方式、②実費積み上げ方式、③控除方式があり、専門的な判断が必要となります。