賃貸物件の退去時の原状回復義務について(タバコのヤニ)
賃貸物件を退去する際に原状回復の範囲についてトラブルになることがあります。家主としては、退去により新たな借主に入居してもらうためにできる限りキレイにしてもらいたい考えますし、退去する者にとしては、賃料を払って借りていたのだから住んでいて普通に生じる損耗等について修繕費用を請求されるのは納得いかないと考えるのが普通です。
こうして賃貸物件の退去時の原状回復についてトラブルが多いことから、国土交通省は、原状回復に関する費用負担について、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表しています。基本的な考え方は、経年劣化も含め、社会通念上、通常の使用方法により使用した結果発生した損耗は、自然損耗として、その修繕費は賃貸人負担となります。これは、賃料に自然損耗の分は含んでいるという考え方です。賃貸借契約でこれと異なる合意をすることは可能ですが、東京都の条例や消費者契約法等により、その内容が不合理で、その特約の内容について賃借人が十分理解していないよう場合は、無効となる場合があります。一方、借主の故意・過失、善管注意義務違反等による損耗・棄損は、借主が修繕費を負担することになります。もっとも、毀損した部分についても経年による劣化・損耗が生じていますので、残存価値を踏まえて負担額が減額されるべきものと考えます。また、修繕の範囲や方法についても、修繕工事が可能な最低限の施工単位を対象として、より安価な修繕方法によるべきと考えられます。
例えば、たばこのヤニによるクロスの汚れが問題となった場合、賃貸借契約でタバコが禁止されていなければ、契約違反にはなりませんので、通常のクリーニングで落ちる程度の汚れであれば通常損耗として借主がクロスの貼り換え費用等を負担する必要はありません。一方、通常のクリーニングで落ちない程度の汚れとなると通常損耗とは言えず、借主もその汚れを除去するための費用を負担しなければならないと考えられます(東京地判平成28年6月28日)。もっとも、汚損の除去方法として新たなクロスに貼りかえる選択をした場合に貼り換え費用全額を負担しなければならないかは別の問題になります。前述のとおり、賃貸借期間が長く、既にクロスの耐用年数を過ぎているような場合は、交換費用全額を負担する必要はないと考えます。参考になるものとして、残存価値を前提として借主の負担額を定めた東京簡判平成14年7月9日、神戸地判平成21年1月21日があります。