退任する取締役の退職慰労金の支給について

 退職慰労金とは、在職中の功労に報いるという功労加算の趣旨があると言われることもありますが、功労加算的な部分も在職中の職務執行を基礎として職務執行の対価として支給されるものであると言えますので、職務執行の対価の一部と位置付けられ、会社法に定める「報酬等」(361条1項)に該当します。
 退職慰労金の支給基準は、退職慰労金規定に定められることになりますが、一般的には、月額報酬、在任期間、役員ごとの係数をもと算定され、功労加算として上限30%以下が定められています。そして、実際に退職慰労金を支給するためには、株主総会の決議が必要となり(定款に定めがある場合除く)、株主総会決議が退任取締役の退職慰労金請求権の効力発生要件であると解されています。したがって、株主総会決議を経ない退職金の支給は原則として無効であり、受領した者は返還義務を負い、支給に関与した取締役は忠実義務違反として損害賠償責任を負うことになります。なお、株主総会決議で退職慰労金規定と異なる金額を決定することも可能です。
 具体的な手続きとしては、退職慰労金についての決議を行い、株主総会に議案として上程することになります。なお、退職慰労金の議案の株主総会への提出決議を行う取締役会決議において、退職慰労金を受給する取締役は特別利害関係人ではないと解されていますので、決議に参加することはできます。なお、通常は取締役退任時ないし退任後の株主総会で手続きが行われます。
 株主総会の決議の方法としては、①内規一任型、②上限確定型があります。内規一任型とは、会社規定の基準に従い相当額の範囲内で支給することとし、その具体的な金額や支給方法は取締役会の決議に一任するという方法です。内規一任型について、判例は、無条件に一任するのではなく、慣行及び内規によって一定の支給水準が確立されており、当該支給基準は株主にも推知し得べきもので、決議が黙示的に右支給基準をもって限度とする範囲内において相当な金額を支給すべきものとする趣旨である場合は有効としています(最判昭和39年12月11日、会社法施行規則82条2項参照)。なお、株主総会によって決定を一任された取締役会が、更に特定の取締役に退職慰労金の決定を一任することも認められています(最判昭和58年2月22日・判時1076号140頁)。上限確定型とは、退職慰労金の支給総額を株主総会で決議し、具体的な支給金額、支給時期、支給方法等についてはその範囲内で取締役会に一任する方法です。
 なお、取締役は、株主が株主総会の議題について合理的判断を行うために必要な情報を提供する義務があります(会社法314条)。そこで、内規一任型の場合は、支給基準及び総支給額の概算については説明義務があると考えられます(奈良地判平成12年3月29日・判タ1029号299頁参照)。もっとも、取締役ごとの個別具体的な金額についての説明義務はないと考えられます。上限確定型の場合は、一義的な基準、計算式の提供がなくても直ちに説明義務違反にはならないと考えられますが(京都地判平成元年8月25日・判時1337号133頁参照)、取締役の説明義務違反は株主総会決議取消事由となりますので、リスク回避の観点から金額を根拠づける一定の説明は必要と考えます。