管理組合が変更後の管理費及び修繕積立金(以下「管理費等」という。)と従前の管理費等の差額を支払わない区分所有者らに対し、差額の支払いと違約金(弁護士費用)等の支払いを求めた事案(東京地判令和2年12月16日)

1 事案の概要

 本件は、区分所有者らが管理組合に対し、マンション管理費等の額を変更する臨時総会の決議無効確認訴訟を提起したのに対し、管理組合が当該区分所有者ら(変更後の管理費等と従前金額との差額を支払わない組合員である区分所有者ら)に対し、差額管理費等・確定遅延損害金、管理規約所定の違約金(弁護士費用相当額)並びに差額管理費等に対して支払済みまで管理規約所定の年15%の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案。
 主たる争点は、①管理費の変更が規約の変更に当たり特別決議を要する事項か、②管理費の変更が区分所有者に「特別の影響」を及ぼし、当該区分所有者の同意を要する事項か、③違約金の額である。

2 裁判所の判断

(1)管理費の変更が規約の変更に当たり特別決議を要する事項かについて

 管理規約上、管理費等の額及び規約の変更について、いずれも総会の決議を経なければならないことを定めているが、規約の変更に関する総会の議事については特別決議で決するものと定める一方、管理費等の額の変更に関する総会の議事については特別決議の対象事項としていない。
 また、管理規約の管理費に関する条項は、管理費の額について具体的に定めた別表を引用する形式を取らず、規約本文と別表とが明確に分離されていること、これまでに数次にわたり、規約の変更を伴わずに管理費等の変更に関する議事が行われていたなど、規約の変更について管理費等の額の変更とは異なる扱いがされていたことなどから、管理規約上、管理費等の変更に関する総会の議事は、規約の変更に関する総会の議事に当たらず、過半数の賛成により、普通決議をもって行うことができるものと解すべきである。

(2)管理費の変更が区分所有者に「特別の影響」を及ぼし、当該区分所有者の同意を要する事項かについて

 管理規約上、規約の制定、変更又は廃止が一部の組合員に特別の影響を及ぼすときは、その承諾を得なければならないと定めるが、本件決議は、管理費等の額の変更に関する議事であると認められ、管理規約上、管理費等の変更に関する総会の議事は、規約の変更に関する総会の議事に当たらないものと解されるから、本件決議について、当該条項の適用はないとした。
 なお、「特別の影響」については、管理費等を修正する必要性及び合理性と、これによって受ける区分所有者らの不利益とを比較して、当該区分所有者らの受忍すべき程度を超える不利益を認められる場合であるかににより判断されるべきであるところ、管理費については、各区分所有建物や区分所有者の個性に由来する要因をなるべく捨象し、一律に各区分所有者の専有面積ないし共有持分割合に比例させて、管理費の額を負担させることはそれ自体合理的であり、修繕積立金については、共用部分を所有することによる負担であり、区分所有建物の資産価値及び建物寿命を維持するための基金となる積立金であって、管理組合が消滅する場合には、その残余財産を構成する修繕積立金について、管理規約上、共用部分の共有持分割合に応じて各区分所有者に帰属することとされているから、各区分所有者の共有持分割合に応じて修繕積立金を負担させることは、一層合理性があるとした。そして、区分所有者らの不利益の程度については、共用部分の共有持分割合を大幅に下回る低額にとどまっていた当該区分所有者らの管理費等について、その共有持分割合に応じた金額に変更することは、富樫区分所有者らに不利益な内容ではあるが、区分所有関係の実態に照らし、各区分所有者の専有面積ないし共有持分割合に比例した管理費等の額とすることに合理性があることとの比較において、不利益は当該区分所有者らの受忍すべき限度を超えるものとは認められない。したがって、類推適用もされない。

(3)違約金の額について

 弁護士費用として総会で可決承認された着手金、報酬金(予備費)、実費(予備費)は、差額管理費の額、本訴への対応に加え、反訴提起が必要となったことなどを考慮すれば、報酬額として相当であると考えられるとして、総会での可決承認額をもって、違約金としての弁護士費用と認めた。

3 コメント

 管理費や修繕積立金等の変更は、「共有部分の管理に関する事項」に該当し、総会の普通決議で変更可能と解されています(区分所有法18条1項)。一方、管理規約の変更は、特別決議が必要であることから(区分所有法31条1項)、管理費や修繕積立金に関する定めの変更が管理規約の変更に当たるか否かにより、決議方法が異なります。
 具体的には、管理規約に具体的に管理費の額を定めている場合や管理規約で管理費を定めた別表などを引用している場合は、管理費の変更は管理規約の変更となります。一方、管理規約では具体既な金額を定めず、別表なども引用していない場合は、管理規約の変更に当たらないことになります。なお、管理規約で別表を引用した事案で、普通決議で足りるとした裁判例もあります。
 本判決は、管理規約において、規約の変更と管理費の変更を区別していること、管理費に関する規定と管理費の額を定めた別表は明確に区別されていること、管理費の変更についてこれまでも規約の変更として扱われてこなかったことなどから、管理費の額の変更は規約の変更に当たらないとしています。
 「特別の影響」については、区分所有法31条1項後段の「特別の影響」と同様の解釈の下で判断しています。
 違約金としての弁護士費用については、訴訟提起時は報酬の額や実費については確定していませんが、総会決議で予備費として計上した概算額についてそのまま認めています。