区分所有者が管理組合に対し、総会決議が決議要件(頭数要件)を満たしておらず無効であると主張して争った事案(東京地判令和2年9月10日)
1 事案の概要
本件は,マンションの区分所有者が,管理組合に対し,管理規約の変更(理事の総数や選任要件等の定め)についての総会決議が、管理規約に定めた決議要件(頭数要件)を満たしておらず無効であり、無効な変更後の管理規約に基づき選任された理事やその理事により招集された総会の決議も無効であるあるとして争った事案。
主たる争点は、①決議の瑕疵が治癒されたか、②総会決議無効の主張が権利濫用かである。
2 裁判所の判断
(1)決議の瑕疵が治癒されたかについて
元々の決議が無効ないし不存在であるとすると、無効ないし不存在の変更後の理事の定員及び資格要件に沿って選任された理事及び理事によって互選された理事長は適法に選任された者ではないことになるところ,招集権のない者によって招集された集会は,区分所有者全員が出席し,開催を承諾した等の特段の事情がない限り,区分所有法上の集会と評価することはできないから,同集会でされた決議も特段の事情がない限り,不存在と評価すべきである。
そして,管理組合の総会決議について,区分所有法は無効事由を定めていないから,決議に瑕疵があれば原則として無効となると解すべきであるが、決議が無効となれば,管理組合内部のみならず,第三者に対する関係においても影響を及ぼすことに鑑み,決議の瑕疵が重大でなく,かつ,その瑕疵があったことが決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかである場合には,当該瑕疵による決議は無効を主張できないと解すべきである。
本件では、本件では、議決権要件は満たしていたものの頭数要件は満たしておらず、管理規約に頭数要件を加えた趣旨が多くの床面積を持たない少数議決権者の権利を一定程度保護することにあることからすればこれを尊重すべきであり、頭数として不足していた人数が3名であったからといって,軽微な瑕疵であるとはいえないとした。そして、議案の内容が合理的であり、当該決議から13年間にわたって当該決議をもとに総会が運営されてきたこと、臨時総会において当該決議の問題がその後の議決等に影響が与えるものではないことを確認する議案が過半数で可決されているとしても、瑕疵は重大であることから、瑕疵は治癒されないとした。
(2)総会決議無効の主張が権利濫用かについて
総会決議無効を主張している区分所有者らは、当初の総会決議で委任状を出すなどして、総会後も決議に無効事由があったことも知る機会があったのであるから、12年も経ってから総会決議無効を主張するのは権利の濫用に当たるとした。
3 コメント
管理組合の総会決議について,区分所有法は無効事由を定めていないから,決議に瑕疵があれば原則として無効となると解すべきであるが、決議が無効となれば,管理組合内部のみならず,第三者に対する関係においても影響を及ぼすことに鑑み,決議の瑕疵が重大でなく,かつ,その瑕疵があったことが決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかである場合には,当該瑕疵による決議は無効を主張できないと解すべきであるとした点が参考となります。
本件は、決議要件を満たしていなかった議案の内容が理事の人数や就任条件に関するものであったから、瑕疵は重大で治癒されないとしたものと思われます。