一般社団法人法の類推適用により総会決議取消ができるか、区分所有者を被告とする訴訟に管理費を充てることができるか等が争われた事案(東京地判令和2年7月28日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの区分所有者が管理組合との間で、臨時総会議案「弁護士費用支払い承認の件」を承認する旨の決議につき、決議の内容又は方法が法令又は被告の管理規約に違反すると主張して、主位的に、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律266条1項1号及び2号の類推によりその取消しを求め、予備的に、同決議が無効であることの確認を求める事案。
 主たる争点は、①一般社団法人法266条1項1号及び2号を類推適用により総会決議の取消しを訴訟提起できるか、②総会決議無効事由(区分所有者の一部を被告とした訴訟の弁護士費用を管理費で負担することについて)があるかである。

2 裁判所の判断

(1)一般社団法人法266条の類推適用により総会決議の取消しを訴訟提起できるかについて

 一般法人法266条1項に基づく決議取消しの訴えは、形成の訴えであると解されるところ、形成の訴えは、その性質上、事実ないし権利関係の変動を画一的に規制する必要がある場合について、法が、対世効を有する判決によって訴訟の目的たる事実ないし権利関係の変動を画一的に生じさせることを規定したものである。このような形成の訴えの特殊性、影響力の大きさに照らすと、形成の訴えを定めている法を類推適用することによって、これを安易に拡張して認めることは許されない。

 さらに、区分所有法の規定をみると、同法3条の区分所有者の団体のうちで法人格を取得した管理組合法人の場合において、一般法人法を一部準用する規定が存在する(区分所有法47条10項)一方、一般法人法266条1項は準用の対象から除外されているから、法は、管理組合が法人となっている場合においても、その決議に一般法人法266条1項が適用されることは予定していないというべきである。
 そうすると、区分所有者を構成員とする団体という点で管理組合法人と類似する性質を有する被告においても、その総会決議について、一般法人法266条1項1号を類推適用してこれを取り消すことは法の予定するところではなく、許されないものと解すべきである。

(2)総会決議無効事由の有無について

 管理組合において行うことができる行為は、本件マンションの「管理組合が管理する敷地及び共用部分等の保安、保全、保守、清掃、消毒及び塵芥処理」や「組合管理部分の修繕」など、分譲共用部分の管理又は使用に関する行為である、本件管理規約30条各号に定められた事項に限られると解される。
 そして、管理組合の集会決議について、区分所有法は決議の無効事由を定めておらず、決議に瑕疵があれば、原則として無効となると解すべきところ、集会決議が無効になれば、管理組合内部のみならず、第三者に対する関係においても影響を及ぼすことになるから、決議の瑕疵が重大でなく、かつ、その瑕疵があったことが決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかである場合には、当該瑕疵による決議の無効の主張は許されないものと解すべきである。
 本件は、管理組合の構成員の一部が訴訟等の当事者となって紛争が生じた場合の当該構成員個人において訴訟等に要した弁護士費用を管理組合が負担することについての承認決議であるが、当該構成員個人の訴訟費用の負担は、管理規約30条各号に定められた被告において行うことができる行為には含まれないものと解さざるを得ない。そして、管理組合において、その目的の範囲外のために管理費を支出するためには、原則として、当該組合に所属する構成員の全員の同意を要するものと解すべきであるが、本件決議は一定数が不承認であり、全会一致でない以上、本来は不承認の決議がされたものというべきである。そうすると、本件決議には、その決議の方法に重大な瑕疵があり、この瑕疵は決議の結果に影響を及ぼすべきものというべきであるから、本件決議を有効とみることはできない。
 また、本件決議は、その他の支出をまとめて、1つの承認又は不承認の決議を行う形式を取っており、各支出が不可分一体として決議されているというべきであることなどから、本件決議全体の無効を確認するほかないというべきである。

3 コメント

 一般社団法人法の類推適用による総会決議の取消しを否定したこと、総会決議に瑕疵があれば原則無効であるが、決議の瑕疵が重大でなく、かつ、その瑕疵があったことが決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかである場合には、当該瑕疵による決議の無効の主張は許されないとした点は、従来からの判例を踏襲したものといえます。
 本件で気になる点は、管理組合の複数の組合員に対する訴えの実質が個人的なものではなく、当該組合員らに対してプレッシャーを与えて、総会議決権行使を萎縮させる目的で行ったともとれる集会差止仮処分申立事件であり、管理組合が費用負担の決議をしたのは、当該事件に対応するための弁護士費用であると管理組合が反論した点について、当該仮処分については申立が認められており、管理組合主張の事実は認められないとして、管理組合の主張を排斥した点です。これは、あくまでも管理組合の主張を排斥するための判断ですが、原告側の不当目的が立証されれば、複数区の組合員個人に対する訴えについての弁護士費用を管理費で負担することも認められる余地があるともとれます。