建築請負契約の施主都合による解約について
1 はじめに
請負契約を締結した後に、当該工事の必要性がなくなり、施主から請負契約を解除する場合があります。民法641条は、注文者は、請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができると定めていますので、損害を賠償する必要がありますが、工事完成前であれば施主はいつでも請負契約を解除することができます。
2 契約解除後の法律効果
施主が契約を解除した場合、解除の効果として、原則として契約は遡及的に消滅することになり、契約当事者は原状回復義務を負うことになります。
もっとも、工事が可分であり、かつ、当事者が既施工部分に関し利益を有するときは、特段の事情のない限り、既施工部分に係る契約を解除することができず、未施工部分に係る契約について解除できるに過ぎません(最判昭和56年2月17日判決)。その結果、請負人は施主に対して、既施工部分の出来高に相当する報酬を請求することができます。なお、改正民法において、この点が明記されました(民634条②)。
また、請負人は施主に対して、損害賠償請求をすることができますが、この損害とは、①請負人が工事のために支出済みの費用と②工事を完成したとすれば得られたであろう利益(逸失利益)となります。①については、材料費や人件費、発注済みの材料や手配済みの人件費等が考えられます。②については、上記出来高報酬が発生している場合は、出来高報酬を除いた分となります。具体的には、未施工部分の報酬額から未施工部分を完成させるために必要な費用(材料費、人件費等)を控除した額となります。
なお、施主は、既施工部分に対する報酬を支払えば、その部分について引き渡しを請求することができ、既施工部分に対する報酬に加え未施工部分に対する逸失利益を超える報酬の支払いをしていれば、原状回復請求として超過分について返還請求をすることができます。
3 具体的な問題
(1) 解除原因が争いとなる場合い
実際の紛争では、施主による解除が施主都合による解除(民641条)か請負人の債務不履行解除(民541条、542条)かが争われることがあります。そして、施主としては請負人に債務不履行があったとして解除を主張しても、具体的に事実関係から請負人に債務不履行がなく、施主都合による解除であると判断される場合もあります。なお、請負人の債務不履行による解除の場合も、既施工部分の工事が可分であり、かつ、当事者が既施工部分に関し利益を有するときは、特段の事情のない限り、既施工部分に係る契約を解除することはできず、その分についての報酬請求権が発生します。もちろん、施主から請負人に対し、別途、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることは可能です。
(2)出来高が争いとなる場合
出来高については、請負人が主張立証責任を負います。出来高の算定は、一般的には出来高割合方式によります。出来高割合の算定は、見積書をベースにして、設計図書や施工状況を撮影した写真、納品書等をベース出来高の算定を行います。なお、出来高部分に瑕疵がある場合は、出来高を算定した上で、損害賠償の問題として相殺扱いをするか、そもそも有益な出来高がないと判断するかのいずれかになると考えられます。
(3)損害額(内容)が争いとなる場合
損害としては、①請負人が支出済みの費用、②未施工分に対する逸失利益ですが、①については、キャンセルが可能なものや一般的な製品で他の工事に転用可能な材料等については、損害に含まれない可能性もあります。人件費についても手配しただけで実際に支払いが生じていない場合も同様です。訴訟においては、既払費用については、請負人が主張、立証する必要がありますので、支払済みであると主張しても立証ができなければ認められません。
②については、企業ごと、工事ごとに利益率は異なりますので、一定の基準がある訳ではありませんが、訴訟では、請負人企業の営業利益率を参考にしたり、見積書における諸経費等の項目を利益として利益率を算出したりするなどして判断しています。裁判例で5から10パーセント程度の判断がなされているものが見られます。そして、未施工部分の報酬額に算定した利益率を掛けて逸失利益を算出します。なお、出精値引き等がある場合に、全体の工事費に占める出精値引額の割合から割引率を算出し、逸失利益等の算定に反映させた裁判例もあります。
(2025.1.13)