不動産仲介会社が100%子会社を売主,顧客を買主として売買の仲介をして手数料を受領したことについて,100%子会社が売買差益を受領していたことから,不動産仲介会社に不法行為責任を認めた事案(東京地判令和5年11月22日)
裁判所の判断は次のとおりです。
不動産仲介会社が顧客との間で,2件の不動産の売買契約を仲介し,顧客である買主から仲介手数料を受領しており,不動産仲介会社と顧客との間には,媒介に関する委任契約があったといえるから,不動産仲介会社は,当該委任契約に基づき顧客に対して,善管注意義務を負っていたといえるほか(改正前民法656条,644条),不動産仲介会社が宅地建物取引業者であることからすれば,宅地建物取引業法31条1項により,取引の関係者に対して誠実に業務を行うべき義務も負っていたといえる。そして,宅地建物取引業者が宅地や建物の売買の媒介等に関して受け取ることができる報酬には上限があるところ(宅地建物取引業法46条1項,2項),このような規定の趣旨を潜脱して利益を得ることは,(上記の委任契約の債務不履行又は)不法行為を構成するというべきである。
本件において,2件の不動産の売主となった会社(以下「子会社」という。)は不動産仲介会社の100%子会社であるが,売買契約の締結に当たり,そのことを顧客に説明しておらず,顧客も上記の点を認識していなかった。その結果,子会社は,物件①につき420万円の,物件②につき100万円の各売買差益を取得した(元の売主からの買値に上乗せした額)。子会社が不動産仲介会社の100%子会社であることからすれば,不動産仲介会社は,原告らから仲介手数料の支払を受けることに加えて,上述した宅地建物取引業法上の報酬規制の趣旨を潜脱して,顧客の犠牲の下に,上記売買差益分の利益を得たといえるから,不動産仲介会社は,顧客に対し,上記の善管注意義務又は誠実義務に違反したものとして不法行為責任を負うというべきである。
よって,上記不法行為により顧客が被った損害は,子会社が受け取った売買差益相当額である。
(2025.4.12)