民泊が禁止された借地権付建物について民泊事業者と賃貸借契約を契約した貸主に告知義務違反があるとして、民泊事業者の損害賠償請求が認められた事案(東京地判令和5年7月26日)
裁判所の判断は以下のとおりです。
不動産取引において,契約を締結するに当たり必要な情報は,各当事者が自ら収集するのが原則であり,とりわけ本件賃貸借契約においては,貸主は不動産業者あるいは宅地建物取引業者ではなく,他方,借主は民泊業者であることからすると,賃貸借契約の締結に当たり,貸主であるという一事をもって借地上で民泊を行ってはいけないという特約の存在につき借主に対して告知義務を負うものとまではいえない。
もっとも,問題となっている情報の重要性等の性質,当該情報についての貸主の認識又は認識可能性,交渉経過等の個別具体的な事案における諸事情に鑑みて,貸主においては,借主になろうとする者に損害を被らせないようにする信義則上の義務として,当該情報に関して借主に対する告知(説明)義務が生じることがあるものと解するのが相当である。
そこで本件に関して検討すると,①民泊事業者は,本件建物を民泊として利用する目的で本件賃貸借契約を締結したものであり,本件建物を民泊事業に利用することができるかどうか,すなわち民泊禁止の特約である本件特約の存否については,民泊事業者が本件賃貸借契約を締結するか否かを判断するに当たり重要な事項であるといえる。そして,は,本件賃貸借契約の締結に当たり,貸主代理人に対して,本件建物を民泊事業に利用する旨を伝えており,また,その旨が本件賃貸借契約に係る契約書及び重要事項説明書に明記されている。
また,②民泊については,治安,衛生,近隣トラブル等の課題を懸念して,契約目的物である建物を民泊事業に利用することを制限する特約が付されることがあることは,不動産取引においては周知の事実であると認められ,かつ,そのような民泊禁止の特約の存否については,契約目的物である建物又はその借地権に関する契約書面を確認さえすれば直ちに判明する事項であるといえる
本件においては,賃貸借契約の目的である建物の敷地である土地に係る借地権に民泊禁止の特約が付されているか否かにつき,当該借地権付建物の売買契約に係る契約書面及び原賃貸借契約に係る契約書面に明記されており,これらの契約書類を確認すれば直ちに把握ないし認識し得る事項であるといえる。 加えて,③借地上での民泊禁止の特約の存在については,売買契約の締結に当たり,貸主に対して説明がされたものと認められ,上記②の事情も併せ考えると,貸主においては,本件建物の敷地である土地に係る借地権に民泊禁止の特約が付されていることは,容易に把握ないし認識することが可能な事項であるといえる。さらに,仮に貸主において特約の存在について直ちに想起することができないものであったとしても,賃貸代理業を営んでいる貸主代理人に対し,各書類を提示,交付しさえすれば,特約が存在することが直ちに判明し得たものということができる。
民泊禁止の特約の民泊事業者にとっての重要性,特約の存否の判別の容易性,特約が存在することについて貸主が把握ないし認識することの容易性,あるいは両当事者間の賃貸借契約の締結に向けた交渉経過等の本件諸事情に鑑みると,貸主においては,本件賃貸借契約の締結に向けた交渉を行っている相手方である民泊事業者に損害を被らせないようにするため,信義則上,本件建物の敷地である本件土地に係る借地権に民泊禁止の本件特約が付されていることにつき,民泊事業者に対する告知義務が生じているものと解するのが相当である。
以上により,本件賃貸借契約の締結に当たり,本件建物の敷地である土地に係る借地権に民泊禁止の特約が付されていることについて,告知義務違反があるものと認められ,かかる貸主の告知義務違反は,民泊事業者との関係において不法行為を構成するものと認められる。
損害の内容としては,契約費用や退去費用,準備した家具等の費用(他に転用可能性があるとして減額),弁護士費用等を認めた。
(2025.4.12)