人事権の行使としての降格について
人事権の行使としての降格には、役職や職位を引き下げるものや職能資格制度の資格や等級を引き下げるものなどがあります。
そして、裁判例の多くは、人事管理は、労働契約上、使用者の人事権の行使として、その裁量に委ねられるという考えを前提として、差別や不利益取り扱い禁止の規制に該当する場合除き、役職や職位の引き下げについては就業規則等に定めがなくても行うことができると判断しています。もっとも、役職や職位の引き下げが社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められる場合は違法となります。
そして、人事権の行使が裁量権の濫用に当たるか否かは、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度、能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度、労働者の受ける不利益の性質及びその程度、当該企業体における昇進・降格の運用状況等の事情を総合考慮し判断すべきとされています(医療法人財産厚生会(大森記念病院事件):東京地判平成9年11月18日・労判728号36頁)。なお、不当な動機や目的に基づく場合も原則として裁量権の濫用となります。
一方、職能資格制度における職能資格の引き下げは制度上本来予定されていないものであり、一般的に労働者の基本給等の待遇の引き下げを伴うことから、就業規則等に使用者が職能資格を引き下げる権限があることが明記されていることが必要であると考えられます(アーク証券事件:東京地判平成8年12月11日・判時1591号118頁、学校法人聖望学園ほか事件:東京地判平成21年4月27日・労判986号28頁)。もっとも、就業規則に定めがある場合でも、使用者が自由に引き下げることができる訳ではありません。役職や職位の引き下げと同様に裁量権の濫用と判断されれば無効となります。
なお、役職や職位の引き下げが職能資格の引き下げを伴う場合については、就業規則上、役職や職位の引き下げが職能資格の引き下げと明確に連動している場合は、職能資格の引き下げについて就業規則に明記されていなくても、役職や職位の引き下げに伴う職能資格の引き下げも許容されると考えられます。