令和元年の民事執行法の改正について(債務者に関する情報取得がより容易に)
これまでは、勝訴判決を取得しても、債務者の財産が不明で強制執行できないということが多くありました。こうした問題点を解決するために令和元年に民事執行法が改正され、令和2年4月1日施行されまれました。改正法は、正式には「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律」といい、債務者の財産状況の調査に関する制度の実効性の向上、不動産競売における暴力団の買受を防止、国内の子の引き渡し及び国際的な子の返還の強制執行に関する規律の明確化を図っています。ここでは、債務者の財産状況の調査に関する制度の実効性を確保するための改正について簡単に述べます。
まず、今回の改正により、金銭債権についての強制執行の申立てをするのに必要な債務名義を有していれば財産開示の申立をすることができるようになりました。これまでは、債務名義を有していても、仮執行宣言付判決や執行認諾文言付の公正証書、金銭の支払いを命ずる仮処分等のように争いの余地のあるものについては除外されていましたが、これらについても行えるようになりました。また、財産開示手続において、開示義務者が正当な理由なく出頭を拒んだり、宣誓を拒んだり、虚偽の陳述をした場合には、6カ月以上の懲役又は50万円以下の罰金を課すことができるようになりました。
そして、何よりも画期的であるのが、第三者からの情報取得手続が新設されたことです。第三者とは、金融機関(銀行、信金、労金、信組、農協、証券会社等)、登記所、市町村、年金機構等から直接、債務者に関する情報を取得することができるようになりました。銀行からの情報取得については、これまでも弁護士照会等で取得することができましたが、基本的には支店を特定する必要がありました。それが、今回の改正により支店の特定をせずに情報の取得が可能となりました(法207条)。もっとも、申立の際に情報取得をする銀行を特定しなければならないという制限はあります。また、登記所に対して行う情報取得は、債務者名義の不動産を調査するためのものです(法205条)。市区町村や年金機構等に対して行う情報取得は、債務者の給与債権に関する情報を得るために行うものです(法206条)。なお、債務者の給与債権に関する情報を取得できる債権者の範囲は、婚姻費用、養育費等の扶養義務に関する債権や生命・身体の侵害による損害賠償請求権を有する債権者のみに限定されています。また、金融機関に対する情報取得の申立てをする場合以外は、財産開示手続を前置する必要があります。
以上、改正のポイントについて説明しましたが、令和2年4月1日からの施行ですので、細かな点については今後の運用がどのようになるか見ていく必要があります。