建築設計契約の成否(設計料の支払い義務の有無)について
家を建てようとする場合、設計事務所に設計を依頼したり、設計から施工までをハウスメーカー等に依頼する場合があります。いずれにしても、まずは打ち合わせから入り、基本設計、実施設計と進みます。基本設計とは、建築主の要望を踏まえて基本構想をまとめ、それに基づいて、建築物の外観、間取り、主要構造等の全体的な概要を具体的な図面に落とすことです。実施設計とは、基本設計に基づき、実際に工事ができるような詳細な図面を作成することです。こうして建築設計を依頼する場合、事前に契約書を締結するのが原則ですが、契約書を締結せずに打ち合わせや設計が進んでしまい、後で設計料の支払いについてトラブルとなることがあります。
設計事務所やハウスメーカー等が勧誘のために一方的に概略の設計図を作成して示すことがありますが、これはあくまでも業者側の営業行為ないし勧誘行為であり原則として設計契約の成立は否定されます。この場合、設計料の支払い義務はありません。もっとも、そうしたやり取りの中で、依頼者が積極的に具体的な要望を出し、業者の方でも具体的な設計に入っている場合は、黙示に設計契約が成立している評価される場合もあります。この場合は、出来高に応じた設計料の支払いが必要になります。なお、契約が成立したと評価できない場合も、依頼者にとって一定の利益のある行為で、詳細な設計まで行っている場合は、商人の報酬請求権(商法512条)に基づき報酬を支払う義務が生ずる場合があります。また、交渉経緯から業者側に契約成立対する期待が一定程度あるような場合は、契約成立に至らなくても契約締結上の過失があったとして依頼者に損害賠償義務が生じることがあります。
上記のように契約書を作成していないにもかかわらず報酬支払義務が発生す場合、その報酬額が問題となります。この点、裁判例は、報酬額に定めのない事案で、当事者の意思、当事者間の従前の慣行、業界内部の基準、仕事の規模、内容、程度、難易度、出来栄え、仕事をなすに至った経緯などの諸事情を総合的に考慮して相当額を決すべきとしたものがあります。また、国土交通省告示第98号「建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準」では、建築士の報酬額の算出方法についての基準が定められており、裁判ではこれが参考とされる場合があります。もっとも、同基準で算出される金額は実際の設計契約で定められる金額よりも高額になる傾向にあると言われています。