有期雇用契約に関する雇止め法理の法定化や無期労働契約への転換について

1 はじめに

 労働契約法が改正され、平成24年8月10日に公布されました。同改正では、①有期労働契約の無期労働契約への転換(労働契約法18条)、②判例法理である雇止め法理の法定化(労働契約法19条)、③有期雇用契約に関する不合理な労働条件の禁止(労働契約法20条)が定められました。そして、②については、公布日から施行され、①③については、平成25年4月1日から施行されています。

2 有期労働契約の無期労働契約への転換について

 労働契約法18条は、同一使用者との間で、2以上の有期労働契約が通算で5年を超えて繰り返された場合は、労働者の申し込みにより、無期労働契約に転換すると定めています。
 同条項の「同一の使用者」とは、労働契約を締結する法律上の主体が同一であることをいうものであり、法人であれば法人単位、個人事業主であれば個人事業主単位で判断されることになります(平成24年8月10日基発0810)。よって、事業所が異なる場合でも同じ法人であれば「同一の使用者」に該当し、別会社に出向した場合なども「同一の使用者に該当します。一方、転籍等の場合は「同一の使用者」に該当しないものと考えらえます。
 また、「2以上の労働契約」とは、契約内容が同一である必要はなく、文字通り2以上の労働契約が締結されていれば足ります。
 そして、「5年を超えて繰り返された場合」とは、施行日である平成25年4月1日以後の日を契約期間の初日とする労働契約に適用され、間にクーリング期間が入ると、それ以前の契約期間は通算契約に算入されないことになります。クーリング期間は、対象となる契約期間が1年以上の場合は6か月以上必要で、対象となる契約期間が1年未満の場合はその2分の1(最長6ヶ月で端数は1か月単位で切り上げる)の期間が必要となります。
 なお、申込は契約期間満了前に行使する必要があり、別段の定めのない限り、契約期間以外の賃金、労働時間等の労働条件は、従前の労働契約が適用されることになります。よって、従前の条件と変える場合は、就業規則に定めを置くか、労働者と個別に合意する必要があります。

3 雇止め法理の法定化について

 労働契約法19条は、判例による雇止め法理が法定化されたもので、①実質的に期間の定めのない労働契約と同視できるような場合、②労働者において有期労働契約の契約期間の満了時に有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合は、使用者が契約更新の申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めが無効となります。
 なお、労働者は、契約終了前に更新の申し込みをするか、満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申し込みを行う必要があります。
 上記①②の判断要素としては、ア業務の客観的内容(従事する仕事の種類・内容・勤務の形態(業務内容の恒常性・臨時性・正社員との同一性))、イ契約上の地位の性格(地位の基幹性・臨時性、労働条件の社員との同一性)、ウ当事者の主観的態様(継続雇用を期待させる当事者の言動・認識の有無・程度等)、エ更新の手続き・実態(契約更新の回数、勤続年数、契約更新時における手続きの厳格性の程度等)、オ他の労働者の更新状況(同様の地位にある他の労働の雇止めの有無等)、カその他契約締結の経緯、勤続年数等により判断されます。なお、②については、ウ、エ、オが重要な判断要素となります。 

4 有期労働の契約、更新時の明示事項及び雇止めの手続きについて

 有期労働契約を締結する際は、①契約期間の明示、②更新の有無・基準の明示が必要であり、雇止めの際は、契約が3回以上更新されている労働者、契約期間が通算1年を超える労働者、1年を超える契約期間の労働者については期間満了日の30日前までに雇止めの予告が必要であり、労働者から理由の明示をされた場合は、期間満了以外の雇止めの理由についての証明書の交付が必要となります。
 なお、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」等の改正に伴い、令和6年4月1日からは、労働契約の締結時と更新時に就業場所・業務の変更の範囲の明示、更新上限の有無と内容の明示(更新上限を新設・短縮する場合はその理由を予め説明)を明示する必要があり、無期転換申込権が発生する契約の更新時には無期転換を申し込むことができる旨の明示と無期転換後の労働条件の明示が必要となります。 

5 最近の裁判例

(1)東京地判令和元年1月25日(ケイ・エル・エム・ローヤルダッチエアーラインズ)

 本件は、当初から契約期間3年で1度に限り2年間更新する場合があるとの条件で有期労働契約を締結し、更新した日本人キャビンアテンダントがオランダに本社を置く航空会社を相手に地位確認等を求めた事案です。
 裁判所は、労働契約法18条が有期労働契約に5年以内の上限を付して利用することについて、労働契約法が通算して5年を超えて更新された場合のみ無期転換申込権を認め、5年以内の有期労働契約の利用に強硬的な介入をしていないことからすれば、有期労働契約を5年以内の上限を付して利用することは、個別の事案において同条の脱法行為ないし公序良俗違反とみるべき特段の事情がない限り許容されると解すべきであるとし、本件では、平成24年の法改正前から日本人客室乗務員について5年を上限とする期間を定めた契約を締結しており、脱法目的であったということはできないとしました。その上で、有効な更新限度の定めがある場合には、原則として当該更新限度を超えて有期雇用契約が更新されると期待することについて合理的な理由がるということはできないとしました。なお、最終的には、オランダ法の適用により地位確認を認容しています。

(2)仙台高判令和5年1月25日(国立大学法人東北大学事件)

 本件は、大学院の研究科で時間雇用職員として働き、複数回契約を更新された者が労働契約法19条により契約が更新され、同法18条により期間の定めのない契約になったと主張して争った事案です。なお、当該労働者が勤務を開始したのは、平成24年の法改正前からであり、大学は、平成26年に就業規則を改正して、通算期間の上限を5年としています。
 裁判所は、上限規制の内容が直ちに労働契約法条18条に違反するものではなく、当該労働者との関係でも脱法行為(専ら法の潜脱を意図したとしかいえないような異常ないし不自然な態様によって法を免れる結果もたらしている場合)となるものではないとし、労働契約法19条項該当性について、労働者の業務が基幹的業務ではなく、従事した業務が時期によって変化していることを考慮して常用性がないとし、それぞれの契約更新手続きに差異があり、時間雇用職員のうち3年を超えて更新された職員は採用者全体の3割に満たず上限規制が形骸化していたとはいえず、更新について相応に厳格な手続きをしていることから更新手続きが形骸化していたともいえない等として、これを否定しました。