不活動待機時間が労働時間に当たるかについて

 不活動待機時間が労働時間に当たるかについて、最高裁は、労基法所定の労働時間は労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない待機時間(不活動待機時間)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動待機時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まり(最判平成12年3月9日・三菱重工業長崎造船所(一次訴訟会社側上告)事件)、不活動待機時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているものといえる(最判平成14年2月28日・大星ビル管理事件)と解しています。そして、その後の裁判例も、上記最高裁の判例を引用して判断しており、労働契約上の役務の提供が義務付けられているか否かについては、場所的拘束性、行動の自由の程度、現に業務に従事する頻度等をもとに判断されていると理解できます。

 具体的には、上記大星ビル管理事件では、仮眠時間中に仮眠室における待機や警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることが義務付けられ、実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その発生が皆無に等しいとは言えないとして、労働時間性を認めましたが、一方で、病院の警備を担当した者の仮眠・休憩時間について、仮眠時間は守衛室と区画された仮眠室において制服を脱いでパジャマ等に着替えて就寝しており、係争期間(2年8か月半)に10名の警備員が仮眠時間中に実作業に従事した件数は合計17件で、1人当たり平均にすると1年に1件にも満たず、その上、このうち仮眠時間を中断して実作業を行ったのは僅か4件にすぎず、うち3件は地震や火災といった突発的な災害に対応したものであ、更に、仮眠中の対応は、実働中の警備員だけで対応できない例外的、突発的な事態が生じた場合に業務に対応可能な状況にあれば足りるとされていたこと等から、仮眠・休憩時間中の警備員が常時、守衛室や仮眠室でも業務に従事する態勢を要求されて緊張感を持続するよう強いられてはいなかったとして労働時間性を否定しました(仙台高判平成25年2月13日・ビソー工業事件)。

 同じく民間企業の警備隊として従事していた労働者の休憩時間について、2時間の休憩時間中にJRからの緊急要請があった場合には直ちに相当の対応をすることが義務付けられているものの、隊員が休憩時間中に出動要請は隊員1人当たり2年に1回程度しかないこと、いずれも休憩時間中に出動した後、代替の休憩時間を取得していること、いずれの要請も悪天候時点検であったから、当日の天候により予測できるものであったこと、休憩時間中の出動要請に対して対応が遅れてもクレームや懲戒の対象にはならないこと、休憩時間中の過ごし方も、多くの者は企業が選定した休憩場所で仮眠を取っているが、その場所から車で移動して別の場所で仮眠を取ることやトイレやコンビニに行くなど自由に過ごすことも許されていること、そして、このように休憩時間中自由に過ごせることは、マニュアルが作成され研修が行われて警備隊員は熟知しており、現に隊員はトイレやコンビニに行ったりして自由に過ごし、管理者から注意を受けることもなかったこと等から、労働が義務付けられておらず労働時間に当たらないとした(静岡地判令和4年4月22日)。

 また、バス乗務員の調整時間について、乗務員は、調整時間中において、乗客の有無や周囲の道路状況等を踏まえて、適切なタイミングでバスを移動させることができるよう準備を整えておかなければならず、また、バスの移動業務がない転回場所やバスの移動業務を終えた後においては、実作業が特になければ休憩をとることができるものの、バスから離れて自由に行動することまで許されているものではなく、一定の場所的拘束性を受けた上、いつ現れるか分からない乗客に対して適切な対応をすることができるような体制を整えておくことが求められていたものであるから、乗務員らは、待機時間中といえども、労働からの解放が保障された状態にはなく、使用者の指揮監督下に置かれているというべきであるとしたものがあります(福岡地判平成27年5月20日・北九州市営バス事件)。

 他に、機械駐車場のメンテナンス業務に従事していた者について、事務所に待機していた時間については、コンビニエンスストアに買い物に出かけたり、インターネットで動画を閲覧するなど自由に過ごすことができてはいたものの、当番従業員が2名とも事務所に待機していることで、顧客からの電話連絡が入ると、速やかに2名で現場に向かうことができるように事務所に待機していたこと、会社代表者においても、当番従業員が、所定の業務終了後も事務所に待機していることを認識し、これを容認していたと認めることができることから、労働からの解放が保障されているとはいえず、会社の指揮命令下に置かれていたものとして、労働時間に当たるとしました。一方で、事務所に待機していない時間帯については、月10回程度の当番を割り当てた上、当番従業員に対し、当番従業員用の携帯電話を携行させ、社用車で帰宅させて、架電があった場合に応答し、必要な場合には現場対応するよう求め、遠方に出かけたり、飲酒したりすることを禁止していたが、それ以上に当番従業員の行動を制約してはおらず、当番従業員は、帰宅して食事、入浴、就寝等をしたり、買い物に出かけたりなど、私的な生活・活動を営むことが十分に可能であると認められること、ベル当番の日に1回以上入電のある確率は約33%、入電のあった日における平均入電回数は約1.36回、入電があってから現場に到着し、作業を終了するまでに要する時間の合計は、平均すると、1時間13分程度であって、これらが多いとまではいえないことも併せると、会社の事務所に待機していない時間帯における不活動待機時間については、いわゆる呼出待機の状態であり、労働契約上の役務の提供を義務付けられていたものではなく、労働からの解放が保障され、使用者の指揮命令下から離脱したものと評価することができるから、これが労働時間に当たると認めることはできないとしました(札幌高判令和4年2月25日・システムメンテナンス事件)。