区分所有者が管理組合法人に対し、共有部分の管理義務を怠ったことにより占有部分に損害が生じたとして債務不履行、工作物責任に基づき損害賠償請求した事案(東京地判令和4年11月11日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの区分所有者が、専有部分にシロアリ被害が発生したのは、管理組合法人がマンションの床下土壌部分に係る管理義務を怠ったことによるものであり、また、同床下土壌部分の設置又は保存の瑕疵があったことによるものであると主張して、債務不履行又は工作物責任(民法717条1項本文)による損害賠償請求として、修理費用等及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
 主たる争点は、①管理組合法人が管理規約に基づく共用部分の管理義務を負うか否か、②管理組合法人が民法717条1項の工作物責任を負うか否かである。

2 裁判所の判断

(1)管理組合法人が管理規約に基づく共用部分の管理義務を負うかについて

 管理組合法人は、マンションの共用部分及び敷地の管理に関する事項は、総会の決議に基づくこととされ、保存行為を除いて区分所有者が単独でこれらの管理をすることはできないのであるから(区分所有法17条1項、18条1項、21条等)、管理組合法人はマンションの共用部分及び敷地の全般的な管理権限を有していることとなる。
 また、マンションの管理機規約において、区分所有者である組合員が、マンションの共用部分や敷地等の管理や修繕に要する費用に充てるため、管理及び共益の費用や積立金を負担する義務を負い、毎月定額の管理及び共益の費用を被告に納入することとされるとともに、積立金でまかなうことができない修繕、保守の費用については、特別積立金又は臨時費を負担する義務を負うこととされているのであり、これは、区分所有者全員によって構成される管理組合法人が、マンションの共用部分及び敷地等の管理について、権限のみではなく責任を負うことをも前提として、その管理に要する費用については、第1次的には被告が負担し、最終的には被告を構成する区分所有者全員が同費用を負担することを明らかにしたものと解することができる。このような区分所有法の定めやマンション管理規約の上記各規定の趣旨に照らせば、本件マンションの区分所有者は、本件規約により、本件マンションの共用部分及び敷地の管理について、被告がその責任において管理すべきことを定めているものと考えることもできる。そうすると、管理組合法人は、マンション管理規約に基づいて、個々の区分所有者に対し、管理組合の業務の1つである共用部分及び敷地の管理を適切に行うべき義務を負い、これを怠ったことにより区分所有者が損害を被った場合には、当該区分所有者に対して債務不履行責任を負うと解する余地がある。
 もっとも、シロアリ被害が判明する前に管理組合法人がマンションにおけるシロアリ被害の発生を予見することが困難であったことに加え、シロアリ被害を予防する防蟻処置を行う対象となるマンションの1階の床下部分を被告が日常的に管理すべき状態にはなかったのであるから、仮に、管理組合法人が、マンション管理規約に基づき、区分所有者に対してマンションの敷地である本件建物の床下土壌部分を適切に管理すべき義務を負っていたとしても、区分所有者の専有部分についてシロアリ被害が生じる可能性を予見することはできないというべきであり、上記管理義務の具体的内容として、専有部分たる建物に立ち入った上で専有部分の一部を損壊して防蟻処置をとるべき法的義務を被告が負っていたとまでは認められない。

(2)管理組合法人が民法717条1項の工作物責任を負うか否かについて

 マンションの敷地はマンションの区分所有者の全員の共有に属するものであり、その占有者は区分所有者全員であって、管理組合法人がマンションの敷地、ひいては区分所有者の専有部分の建物の床下土壌部分を占有しているとは認められない。
 また、管理組合法人は、マンション管理規約に基づいて、マンションの敷地等の管理を適切に行うべき義務を負うと解する余地があるものの、マンションは、その外部から区分所有者が専有する建物の1階の床下部分に出入りすることはできないという構造であり、当該建物を含むマンションの1階の床下の土を管理組合法人が日常的に管理することは極めて困難であることからすると、管理組合法人が、マンションの1階の床下部分について、占有者に準じた地位にあると評価することもできない。

3 コメント

 裁判所の判断は、管理規約の内容からすれば、共用部分についての管理権限を有しているだけでなく責任も有していたと考えらえるが、シロアリ被害の予見可能性がなかったとして、防蟻処理義務はないというものでした。また、工作物責任については、管理組合法人が占有者にも占有者に準じた地位にも当たらないとしました。管理組合を被告として民法717条1項の責任が問われた裁判例が幾つかありますが、基本的には、共有部分は区分所有者全員の共有であるとして、管理組合の工作物責任を否定しています。