離婚における財産分与(債務の清算)について
民法768条は、離婚による財産分与について規定しています。財産分与の法的性質については、夫婦財産関係の清算や離婚後の扶養等を含むと理解されています。そして、財産分与の対象としては、不動産、預貯金、保険の解約返戻金、退職金、株式等が対象となり、通常は、積極財産から消極財産(債務)を控除し、夫婦の財産形成に対する寄与割合を考慮して分与額が決められます。特段の事情がない場合は、二分の一ずつとなります。
問題は、積極財産から消極財産を控除したときに債務だけ残った場合です。例えば、預貯金が500万円、不動産の評価が2000万円、不動産ローンの残元金が3000万円で、積極財産2500万円から消極財産(不動産ローン)を控除すると、債務超過となるような場合です。このような場合、実務上は、分与すべき財産がないとして財産分与が行われないという処理が一般的であると思われます。その理由としては、民法768条の規定が「当事者の協力により得た財産」と規定されていること、債務者のみ債務の負担割合を定めても債権者との間で効力を生じないこと、債務の多くが分割払いとなっている中で一括払いでの債務の負担を求めることは分割払いの利益を無視し法律関係を複雑にする等の理由が挙げられています。一方で、夫婦において共同で負担した債務はその寄与度に応じで両者が負担することが公平に資するとして債務の負担も積極的に認める見解もあります。確かに、事案によっては債務を負担させなければ明らかに不合理というような場合もあると考えられますが、多くは財産分与無しとするのが適切な場合であろうと思います。特に、居住用の土地建物を購入したがオーバーローン状態で債務超過というような場合、財産分与により不動産を取得しない当事者がローンのみ2分の1負担するというのは極めて不公平であると考えます。なぜなら、自宅不動産は、その価値として交換価値を有しますが、第一は居住の利益にあると考えられるからです。夫が土地建物の所有権を取得し居住の利益を得ている一方、妻は土地建物の所有権を取得できず債務(寄与割合に応じた分)だけ負担させられることになると、妻とっては著しく酷なものになります。離婚時の財産分与にあたって不動産の金銭的評価を行うことは一般的ですが、自宅不動産については単なる金銭的評価につきるものではなく居住の利益を無視することができません。
なお、債務を負担させるとした裁判例(平成11年9月3日東京地判・判例タイムズ1014号239頁)もありますが、これも不動産の名義人に債務を負担させたというものであり、単に債務のみ負担させたものではありません。