従業員及び退職者の守秘義務について
1 従業員の守秘義務
就業規則に守秘義務について規定されている場合が多くありますが、労働契約に付随する義務として労働者は使用者の正当な利益を侵害してはならない義務(誠実義務)負っていますので、就業規則の定めの有無にかかわらず、従業員は会社に対して守秘義務を負うことになります。守るべき秘密情報の内容については、就業規則等で明確に定められていればそれに基づくことになりますが、明確に定められていない場合は、不正競争防止法における「営業秘密」の範囲より広く、開示によって会社に不利益を及ぼすこととなる情報と解することができます。
2 退職者の守秘義務について
退職者は、使用者との労働契約を解消していますので、当然に守秘義務を負うことにはなりません。退職者に引き続き守秘義務を負わせるためには、就業規則や誓約書等で退職後の守秘義務について合意することが必要となります(以下「守秘義務特約」といいます。)。もっとも、守秘義務特約で定める秘密情報の範囲が不明確で過度に広範であったり,そもそも秘密情報として保護する必要がなかったりするような場合には,退職者の職業選択の自由や営業の自由を不当に侵害することになり、守秘義務特約自体が無効と判断される場合があります。裁判例を見ますと、対象とする秘密情報の特定性や範囲,秘密として保護する価値の有無及び程度,退職者の従前の地位等の事情を総合考慮し,その制限が必要かつ合理的な範囲を超える場合には,守秘義務特約は公序良俗に違反し無効となるとしています。なお、守秘義務特約で秘密情報の定義が明確でない場合に、秘密情報の範囲を限定的に解して、守秘義務特約は無効ではないが守秘義務特約に違反していないとするものもあります。