売買した土地の土壌汚染及び埋設物について瑕疵担保責任及び説明義務違反が否定された事案(東京地判令和2年3月2日)
1 事案の概要
本件は、食品の卸業をする会社が土地建物の賃貸、分譲等を業する会社から土地を購入したところ、当該土地には売買締結時に明らかでなかった土壌汚染及び埋設物があったと主張して、売主の瑕疵担保責任(民法570条)、又は債務不履行(売買契約上の表明保証違反及び付随的義務である説明義務違反)に基づき、損害賠償請求した事案。
2 裁判所の判断
(1)売主が瑕疵担保責任を負うか
ア 地中埋設物に関する瑕疵について
買主は、本件土地が長年にわたってJが所有し、一時期、J用地として使用された後、20年以上も空地又は鉄製の管材、塩ビパイプ、ケーブル長尺物等の資材置場として利用されてきた土地である旨の記載がある本件地歴報告書を受領している上、遅くとも昭和63年ころから、本件土地の隣接地で営業をしていたのであるから、上記のような本件土地の利用状況や、本件土地が、Jの送電のための鉄塔、鋼材の売買等を目的とするH株式会社の工場及び建設機械の修理・製作・販売を目的とするI株式会社の工場等に隣接していることをも十分認識していたと考えられる。これに加えて、本件特約5項において、少なくとも残置物として「⑤旧鉄塔基礎⑥水道埋設管及びガス埋設管⑦木柵⑨旧建物(寮、資材置場ですが登記記録は存在しておりません。)基礎等」が確認されていた旨の記載がされていたことからすれば、当事者双方は、本件売買契約締結時において、本件土地は工場用地として利用されていた地区内にある土地であって、これまでの利用状況等からして、従前、保管されていた資材の一部や存在した建物の基礎等、何らかの埋設物が地中に残存していると共に、それらによる何らかの土壌への影響が残っている可能性があるものと認識・想定していたものと考えられる。
そうすると、本件土地に、コンクリート杭、コンクリート製の側溝、ケーブル、木くず、ゴミ等の本件埋設物が埋まっていたことは、契約当事者間の合意に基づき予定されていた品質又は性能を欠き、隠れたる瑕疵に該当するものとは認められない。
イ 土壌汚染について
買主は、売主から本件売買契約の際に、本件土地から第1種特定有害物質(揮発性有機化合物)は検出されず、第2種特定有害物質(重金属等)及び第3種特定有害物質(PCB)は全て基準に適合しており、土壌試料中に油臭・油膜は確認されなかった旨の記載がある本件調査報告書を受領しているから(前記1(1)エ、カ)、当事者双方は、本件売買契約締結時において、本件土地に深刻な土壌汚染はないものと認識していたものと考えられる。
そして、鑑定の結果によれば、少なくとも、本件試し掘りがされた部分については油分も確認されていないことからすれば、これを越えて、本件土地の広範囲の土壌中に多量の油分が広がり、油によって土壌が汚染されているとは認められない。
また、中央環境審議会土壌農薬部会土壌汚染技術基準等専門委員会が平成18年3月に発出した「油汚染対策ガイドライン-鉱油類を含む土壌に起因する油臭・油膜問題への土地所有者等による対応の考え方-」によれば、油汚染問題に対する対応の基本は、地表や井戸水等の油臭や油膜という、人が感覚的に把握できる不快感や違和感が感じられなくなるようにすることとされており、一般の工場・事業場の敷地などにおいては、舗装などによる地表の油臭の遮断と油膜の遮蔽が基本とされているところ、本件土地のうち、油分が認められた全ての地点において、地表では油膜は認められなかったから、油膜を遮蔽する対策が必要であるとはいえない。
油臭についても、本件ガイドラインによる0~5までの6段階のうち、段階2の油臭が認められたのは、地点アの深度1メートル、Eの深度1.5メートルの2地点のみであったものであり、その余はいずれも段階1であったところ、段階1の油臭については、通常、何らかの対策が必要であるとは認められない。段階2についても、必ずしも対策が必要であるとはいえないところ、原告は、本件土地を倉庫の敷地として使用するため、当初から、本件土地に対する地盤改良工事や地表の舗装工事を予定していたというべきところ、油臭についても、設置費用が約13万円程度の油防止シートを倉庫の基礎の下に設置するという簡易な対策を施すことによって、現在、特段の問題もなく本件土地上の倉庫で小麦粉問屋業を営んでいることからすれば、土地を裸地のまま利用する際に検討されるべき土壌の掘削除去や油含有土壌中の油分を分解あるいは抽出する浄化などの対策が必要であるとまでは認められない。そうすると、本件土地の南東部分のうち、隣接地との境界付近部分の深さ1~1.5メートル付近の土壌には油分が含まれていたことは、契約当事者間の合意に基づき予定されていた品質又は性能を欠き、隠れたる瑕疵に該当するものとは未だ認められない。
(2)売主に表明保証義務違反の有無について
契約書の特約には、現在確認されている残置物として、旧鉄塔基礎、水道埋設管及びガス埋設管、木柵、旧建物(寮、資材置場ですが登記記録は存在しておりません。)基礎等については不明との記載がされているのであるから、むしろ、本件土地には埋設物が存在する可能性があることが指摘されているというべきであって、被告が、本件埋設物が存在しないことを表明し保証したとは認められない。
(3)売主の説明義務違反の有無について
売主は、買主に対し、埋設物については、特約5項において、それが存在する可能性について言及した上で、特約6項において、その処理の分担を定めているものである。また、土壌汚染については、被告は、原告に対し、本件売買契約時に本件地歴報告書及び本件調査報告書を交付しているところ、本件調査報告書による調査が、本件土地を売買するに当たって、通常行うべき程度に欠けるほど不十分なものであったと認めるに足りる証拠はない。よって、売主に本件売買契約の付随的義務である説明義務違反があったとは認められない。
3 コメント
裁判所は、隠れた瑕疵の有無については、買主も当該土地の利用状況等についても認識しており、一定の地下埋蔵物があるであろうことは認識することができ、契約書にも一定の埋蔵物がある可能性についても言及しており、汚染についても客観的調査結果を前提に油汚染対策ガイドラインを参照しつつ、何等かの対策が必要な状態ではないとし、結果として隠れた瑕疵に当たらないとしました。
また、説明義務違反については、売主が地歴報告書と土壌汚染調査報告書を提出していることから説明義務違反はないとしました。
民法の改正により、瑕疵担保責任は契約不適合責任と変更になりましたが、結局のところ、契約に至る経緯その他から契約時の当事者の合理的意思を推認して合意内容を確定し、契約不適合があったか否かを破断することになります。