円滑化法に基づく敷地売却決議により建物の明渡しを強制させる賃借人が区分所有法44条1項の利害関係に含まれるか争われた事案(東京地判令和4年3月28日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの区分所有者から専有部分を賃借している者が、管理組合総会における円滑化法108条1項に基づくマンションの敷地売却決議には、区分所有法44条1項及び管理規約に違反する瑕疵があり、その瑕疵の程度も重大であるとして、上記決議の無効確認を求めた事案。
 なお、円滑化法149条1項により権利消滅期日に借家権が消滅し、同法155条により借家人はその日までに貸室を明け渡さなければならなくなる。

2 裁判所の判断

 区分所有法44条1項の趣旨は、同法において、区分所有者以外の専有部分の占有者も、建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならず(6条3項・1項、57条4項、60条)、また、建物又は敷地若しくは附属施設の利用方法につき、区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う(46条2項)ことから、区分所有者の承諾を得て専有部分を占有する者に対し、「会議の目的たる事項につき利害関係を有する場合」に、集会の議事に関与する機会を与えるところにある。かかる同法44条1項の趣旨に照らせば、「利害関係を有する場合」とは、占有者が法律的な利害関係を有する場合であって、事実上の利害関係を有する場合を含まず、具体的には、占有者が直接に義務を負うことになる建物又は敷地若しくは附属施設の使用方法に関して集会の決議をする場合(それに関する規約の設定又は変更の決議をする場合を含む。)をいうと解される。
 これを本件についてみると、円滑化法120条、122条、141条、147条、149条および155条等によれば、マンション敷地売却事業において、マンション敷地売却合意者(マンション敷地売却決議の内容によりマンション敷地売却を行う旨の合意をしたものとみなされた者)らにより都道府県知事等の認可を受けて設立された敷地売却組合が、分配金取得計画を定めて都道府県知事等の認可を受け、その旨を公告するとともに、関係権利者に関係事項を書面で通知することにより、同計画に定められた権利消滅期日において、売却マンションが敷地売却組合に帰属し、売却マンションを目的とする所有権以外の権利は消滅し、売却マンション又はその敷地を占有している者が、権利消滅期日までに、敷地売却組合に売却マンション又はその敷地を明け渡さなければならない。
 そうすると、本件マンションの敷地売却事業においては、前記前提となる事実のとおり、本件決議後に、マンション敷地売却合意者らにより港区長の認可を受けて設立された本件売却組合が、分配金取得計画を定めて港区長の認可を受け、その旨を公告するとともに、関係権利者に関係事項を書面で通知することにより、同計画に定められた権利消滅期日において、賃借人の本件居室に係る借家権が消滅し、賃借人は、権利消滅期日までに、本件売却組合に本件居室を明け渡さなければならないこととなる。したがって、賃借人は、本件決議によって、本件マンション又はその敷地若しくは附属施設の使用方法に関して直接に義務を負うことになるとはいえず、また、本件決議によって本件居室の明渡義務を負うことになるともいえないから、賃借人は、本件議案に法律上の利害関係を有すると認めることはできない。よって、本件決議に瑕疵はない。

3 コメント

 区分所有法44条1項の「利害関係を有する」とは、占有者が法律的な利害関係を有する場合であって、事実上の利害関係を有する場合を含まず、具体的には、占有者が直接に義務を負うことになる建物又は敷地若しくは附属施設の使用方法に関して集会の決議をする場合(それに関する規約の設定又は変更の決議をする場合を含む。)をいうと解されています。本判決も同様に解して利害関係がないと判断しています。
 なお、意見陳述権が認められる場合は、集会への出席自体が認められており、出席を認めず書面のみで意見陳述させることは本法違反と解されています。また、本法違反の決議は、意見陳述の機会を与えられなった占有者との関係では効力が及びないとかされています。