下請業者が元請業者に対して追加工事費の請求をしたのに対し、元請業者が瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求等をした事案(東京地判令和4年7月22日)

1 事案の概要

 本件は、内装工事の下請業者が元請業者の請け負った戸建住宅のリフォーム工事について、元請業者に対し、追加変更工事報酬を含む請負報酬の支払を求めたのに対し、元請業者が下請業者に対し、改正前民法の瑕疵担保責任に基づく修補に代わる損害賠償等を求めた事案である。
 主たる争点は、①追加工事代金支払い合意の有無、②瑕疵の有無、③瑕疵担保責任保険の保険金との損益相殺についてである。

2 裁判所の判断

(1)追加工事代金支払い合意の有無について

 住宅改修工事について、下請業者と元請業者で協議して、報酬額を400万円(税抜)として、その範囲で、見積書に記載されている工事内容を、間取りの変更を含めて、大幅に変更しており、その工事内容は当初の見積書記載のものから大きく異なっていたが、この変更によっては報酬額が変更されない認識で協議されていたことが認められる。
 そうすると、下請契約締結時より前に施工することになっていた工事については、特段の合意がされているなどの事情がない限り、報酬400万円(税抜)に含むものとして請契約が締結されていたものと推認できる。
 また、下請業者が追加工事であると主張するものについては、本工事に付帯する工事は当然に本工事の一部で追加工事に当たらず、当初の見積書に記載のない工事についても、上記のような契約の特殊性から、有償として追加の費用が発生する旨の説明がない以上、無償との合意が成立していたと推認できる。

(2)瑕疵の有無について

 耐震補強については、耐震診断が前提となるところ、これが予定されていなかったことから、可能な範囲で行うという程度の合意であり、瑕疵に当たらないとした。また、クローゼットのサイズ違いについては、その他事実関係から図面に誤記があったものとして、図面と異なることが瑕疵に当たらないなとした。雨水の侵入については、漏水検査が予定されていないことなどから可能な範囲で行うという程度合意であり、また、漏水原因と下請業者の作業との因果関係が不明であるとして瑕疵に当たらないとした。厨房の防水処理は立ち上がり不足を瑕疵としたが、元請業者の請求額は認めず、瑕疵の内容に応じた相当な費用の限度とした。

(3)瑕疵担保保険の保険金との損益相殺について

 保険金給付の前提となった保険事故の内容と下請業者の施工瑕疵の内容とは同一性を欠いているといえ、下請業者の施工瑕疵に基づいて保険金請求をした場合に保険金が支払われるか否か、保険金の支払によって、保険者が元請業者の下請業者に対する瑕疵担保責任に基づく修補に代わる損害賠償請求権について保険法25条1項による保険代位をするか否かは判然としないといわざるを得ないが、保険金請求の対象となる保険事故の内容は下請業者の瑕疵の内容とは異なるものの、同一の現象を対象として請求され、かつ、同請求において必要とされた工事は、元請業者が行なった工事や本件意見書で相当な補修方法と指摘されている工事の内容と重複する内容であるなど、下請業者の瑕疵によって生じた元請業者の損害と、保険金が前提とする被告の損害との共通性が認められ、元請業者が下請業者から賠償を受けた場合には、保険代位が生じないので、元請業者は保険金を保険会社に返金しない限り、保険金と併せて、共通性のある損害について、それぞれ金員を得ることで、二重の利益を得ることになる。以上の事実関係に照らすと、このような主張をすることで、元請業者が二重の利益を得ることは、信義則に反し許されないというべきである

3 コメント

 本件は、当初見積書の内容から工事内容が大きく変更されたが、報酬額は当初額のとおりという合意の成立があったとの認定を前提としているため、追加工事の多くは、追加費用の説明がなかたから当初の報酬額に含まれるものとしました。また瑕疵の有無についても、合意違反の瑕疵については、当初の契約の内容で予定されていなかった工事であるとして瑕疵ではないとされました。つまり、当初の契約が大きく工事内容を変更しつつ、報酬額を変えないというものであったことが影響していると考えられます。追加工事の場合は、その都度議事録を残しておくのが望ましいと言えます。