ハラスメントにおける法的責任等について
ハラスメント(嫌がらせ行為)があった場合、被害者は、行為者に対して不法行為に基づく損害賠償請求を行うことが考えられます(民709条)。また、会社に対しては、使用者責任(民719条)、労働契約上の付随義務として安全配慮義務違反(労契法5条)、職場環境配慮義務違反(民415条、709条)に基づく損害賠償請求が考えられます。行為者が代表者の場合は、会社法350条に基づく請求も考えられます。これに対し、行為者は、事実を争う場合は、被害者に対して名誉棄損等を理由として不法行為に基づく損害賠償請求(民709条)、会社から解雇等の処分を下された場合は、雇用契約上の地位確認や懲戒処分の取り消しを争うことが考えられます。
ハラスメントのうち、セクシャルハラスメントについては、相手方の意に反する性的な言動と理解されています。当該言動が違法と評価されるのは、社会通念上許容される限度を逸脱していると判断された場合です。なお、雇用機会均等法は、意に反する性的な言動に対して事業主に雇用管理上必要な措置を講じる義務を課しています(法11条1項)。そして、措置義務の詳細については指針が定められています。
パワーハラスメントについては、改正労働施策推進法30条の2第1項において、①優越的な関係を背景に、②業務上必要かつ相当な範囲を逸脱した、③就業環境を害する行為と規定されており、企業に対して措置義務が課されました(大企業は令和2年6月1日施行、中小事業主は令和4年4月1日施行)。なお、①については、必ずしも上司から部下に対するものだけではなく、同僚や部下による場合も考えられます。②については、業務上明らかに必要のない行為や業務の目的を大きく逸脱した行為、手段として不適当な行為等が該当します。③については、暴力、暴言、執拗な叱責等が該当し、これらは平均的な労働者を基準として判断されます。なお、平成24年1月30日付厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議・ワーキンググループ報告」では、パワーハラスメントの行為類型として、6つの類型を挙げています。具体的には、ⅰ暴行・傷害、ⅱ脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言、ⅲ隔離、仲間外し、無視、ⅳ業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害、ⅴ業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと、ⅵ私的なことに過度に立ち入ることです。当該言動の違法性は、行為者と受け手の関係性や受け手の問題行動やミスの内容等の具体的事実関係を基に社会通念上許容される限度を逸脱しているか否かで判断されることになります。
そのほかに、マタニティー・ハラスメントがありますが、これについては、雇用機会均等法9条3項、育児介護休業法10条で禁止されています。そして、通達では、原則として、妊娠・出産・育児休業等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は、これを契機とした不利益取扱いと判断されるとしています。