名目取締役の責任、不実の取締役登記をされた者の対応等について
取締役は、会社との委任契約に基づき会社の機関として業務執行の意思決定行ったり、取締役会のメンバーとして業務執行の監督を行います。そして、会社、株主、取引先、第三者等に対して責任を負うことになります。取締役とはこうした重要な立場にいることから、相応の経験を有し、能力がある者が就任することが一般的ですが、特に中小企業では、親族に役員報酬を付与するためや人数合わせのために取締役として名前を借りたりすることがあります。
こうした名前だけの取締役も取締役としての責任を負うか問題となりますが、原則として、名前だけの名目取締役も監視・監督義務を負い、第三者に対する責任を負うことになります。もちろん、具体的事情の下で責任が否定される場合がありますが注意が必要です。
これと異なり、本人が同意していないにもかかわらず、知らないうちに取締役として登記されていた場合は、原則として責任を負いません。もっとも、自己が取締役として登記されているのを知ったにもかかわらず、これをそのまま放置しているような場合は、責任を問われる可能性があります。したがって、このような場合には、速やかに会社に対して不実の登記の抹消を請求すべきです。会社が応じない場合は、会社に対する抹消登記請求をすることになります。
また、元々実質的な取締役であった者が辞任・退任したにもかかわらず、会社が辞任・退任登記をしてくれない場合があります。このような場合、辞任・退任登記がされていないことをもって直ちに第三者に対して責任を負う訳ではありませんが、明示的に同意していたような場合は取締役としての責任を負うことになります。したがって、辞任・退任したにもかかわらず辞任・退任の登記がされていないような場合は、会社に対し、取締役退任登記手続の請求を行う必要があります。
なお、取締役会設置会社の場合で、退任により法定の人数が欠ける場合は、法務局も退任登記をしてくれず、退任取締役もなお取締役としての権利義務を負うことになりますので(会社法346条1項)、次の取締役選任の手続きを進めるよう会社に働きかける必要があります。会社が新しい取締役を選任する手続きを進めてくれない場合は、利害関係人として仮取締役の選任申立を検討することも必要ですが、病気等により会社法346条1項の責任を負えないということもでもない限り、仮取締役が選任される可能性は低いと考えられます。