認知症を患っている高齢者の不動産売却に関する契約無効の主張について

 悪質な不動産会社が認知能力の衰えた高齢者に不動産売却を持ち掛け、安価な価格で買い受けるというトラブルが多く発生しています。認知症として既に後見開始の審判を受けている場合は、原則として売買契約を取り消すことが可能ですが(民法9条)、後見開始の審判を受けていない場合は、契約当時の意思能力が問題となります。意思能力が欠如していたと判断されれば、契約は無効となりますので(民法3条の2)、不動産を取り返すことができますが、意思能力が欠如していないと判断されれば、不動産を取り返すことは困難となります。
 そして、意思能力が欠如していたか否かの判断は、具体的な法律行為ごとに判断されるものであり、医師による診断結果が重要ですが、他に売買契約締結に至る経緯や動機、契約内容の合理性等の事情が考慮されます。
 医師の診断については、契約締結前に認知症と診断され、不動産等の重要な財産の処分等についての判断能力がなかったということであれば、意思能力が欠如していたと認定される可能性が高いと言えます。仮に、契約締結前に医師による診断を受けてなくても、売買契約締結後速やかに医師による診察を受けることが重要です。そこで、不動産等の重要な財産の処分等についての判断能力がないと判断されれば、それと近い売買契約締結時においても同様の状態であったと一定の推認が働くからです。もっとも、医師の診断書が絶対的なものではありませんので、高齢者の身近にいた親族や関係者が日ごろ、当該高齢者の言動についてどのように認識していたか等についても整理することが必要です。また、高齢者が不動産を売る理由がないにもかかわらず相当低額で譲渡している場合等、契約締結に至る経緯や契約内容が不合理な場合は、意思能力が欠如を推認する事実となりますので、こうした事実関係の整理も必要となります。
 なお、意思能力が欠如しているとは言えない状態の場合でも、判断能力が低下している高齢者に執拗に契約を迫り、相当低額な代金で売買契約を行うなど、契約締結に至る経緯や契約内容等から公序良俗違反で契約が無効と判断される場合もあります。 以上のとおり、高齢者が被害に遭わないようにするためには、親族等周りにいる方が注意をし、判断能力が衰えてきたと感じた場合は医師による診察を受けるなど進め、判断能力が衰えて来たと感じた場合は、本人の了承を得て実印等の管理を行ったり、必要に応じて補助、補佐、後見等の申立を行うことが重要です。