管理組合が元理事長及び管理会社に対し、債務不履行責任等を主張して損害賠償請求等をした事案(東京地判令和2年7月10日)
1 事案の概要
本件は、マンション管理組合が元理事長に対し、①主位的に、総会決議(委任状無効により)が無効であると主張して、不当利得返還請求権に基づく元理事が管理組合から受領した役員報酬の返還を求め、②予備的に、総会決議が有効である場合を前提に、理事長としての善管注意義務違反に基づく損害賠償として、役員報酬相当額の損害賠償を求めるとともに、①工事の際の事務所名目で本件マンションの自己所有の居室を原告に対して賃貸したことは自己取引に当たり無効であり、理事長としての善管注意義務違反にも当たると主張して、選択的に、不当利得返還請求又は債務不履行に基づく損害賠償請求をし、②管理組合に不必要な工事をさせたことが理事長としての善管注意義務違反に当たると主張して、その損害賠償請求をし、管理会社に対し、①主位的に、総会決議が無効であると主張して、管理会社が管理組合から受領した事務管理業務費及び管理手数料の返還を求め、②予備的に、総会決議が有効である場合を前提に、債務不履行に基づく損害賠償請求として、事務管理業務費及び管理手数料相当額を求めるとともに、管理委託契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求として不必要な工事費用相当額の賠償を求めた事案。
2 裁判所の判断
(1)総会決議の有効性について
管理規約では受任者は同居者と定めているところ、委任状は同居者に限定せず組合員としていることから、当該委任状をもとにした総会決議は無効であるとの主張に対し、合理的解釈をすれば、代理人は、マンションの運営に利害関係を有する他の組合員か、当該以外の者である場合には当該組合員と同居する者に限定するという趣旨の規定であると解するのが相当であるとして、同居人以外の組合員を受任者とした委任状は有効であり、総会決議は有効であるとした。
(2)元理事の善管注意義務違反について
各修繕工事の必要性を個別に判断し、その必要性を認め、元理事に善管注意義務違反はないとした。
(3)元理事の不当利得について
元理事が自分の部屋を管理組合に貸し出した点については、自己取引に当たり、理事会の同意もなく、総会でも承認が否決されたことから不当利得に当たるとして、賃料相当額の返還請求を認めた。
(4)管理会社の責任について
管理会社の責任は否定した。
3 コメント
元理事の行為に対して、債務不履行や不法行為に基づく損害賠償請求がなされる場合がありますが、管理組合に生じた損害については、各区分所有者ではなく管理組合が原告となって訴訟を提起することになります。