土地の使用貸借関係における土地所有者による土地占有者に対する土地明渡請求について
建物所有目的で土地を賃借すると借地借家法の適用があり、借地人は借地借家法により保護され、貸主の一方的な意向により借地契約を解消することはできません。これとは異なり、親子等の人的関係を基づき無償あるいは固定資産税程度の低価格で土地が貸し出される場合があります。この関係を使用貸借と言いますが、使用貸借(民法593条以下)の場合は、借地借家法は適用されず、貸主は、返還時期を定めたときはその返還時期に、使用収益の目的を定めたときは定めた目的に従って使用収益を終わった時期に借主に対して返還請求することができます。
そこで、使用収益をするのに足りるべき期間が経過したかどうかの判断基準が問題となりますが、これは経過した年月、土地が無償で貸借されるに至った特殊な事情、その後の当事者間の人的つながり、土地使用の目的、方法、程度、貸主の土地使用を必要とする緊要度など双方の諸事情を比較衡量して判断すべきものであるとされています(最判昭和45年10月16日、最判平成11年2月25日)。裁判例としては、被相続人の面倒をみるために被相続人所有の土地に家を建て使用していた兄弟に対し共同相続人である兄弟が明渡を求めた事案で、相続を契機としており、借主側の土地を使用する必要性が高く貸主側の土地を利用する必要性が低いとして、使用収益をするのに足りるべき期間が経過したとは言えないとして土地明け渡し請求を棄却したものがあります(東京地判平成28年1月27日)。
なお、使用貸借期間が経過したとして占有権原が否定される場合でも、土地所有者による土地占有者に対する土地明け渡し請求が権利の濫用と評価されるときは、土地明け渡し請求が棄却されることになります。東京地判平成29年9月7日は、土地の所有者が土地を一般的な取引相場の3割程度の低額な価格で取得した経緯等を考慮した上で、土地の買受人(所有者)の土地占有者に対する建物収去土地明渡請求が権利の濫用であり許されないとして請求を棄却しました。もっとも、土地の占有者は正当な権利を有していないことから、土地の固定資産税等を基礎に使用相当損害金(地代相当額)を算出してその使用相当損害金の請求は認容しています。