建築士の設計が依頼者のイメージや予算と異なっていた場合に建築士は法的責任負うか
依頼主が建築士に設計を依頼したところ、出来上がった設計図面が依頼者の考えていたイメージと異なり、予算もオーバーしているというような場合があります。このような場合、依頼主は建築士に対して債務不履行を理由に設計契約を解除し、設計料の支払いを拒否することができるか問題となります。
そもそも、設計は、設計者である建築士において、依頼主からの様々な要求・注文を整理し、その専門性において技術面や予算面等の検討を行いながら建築士の創作性を加味して具体化していく作業です。したがって、建築士は、依頼者の要求・注文を踏まえて設計を行う義務がありますが、依頼者のイメージや予算とズレていたからといって直ちに債務不履行責任を負う訳ではありません。
設計に当たっては、予算の問題や法規制の問題もあり、建築士の個々の創作性の問題もありますので、依頼者のイメージに合わず気に入らないからといって、直ちに設計契約の債務不履行となる訳ではありません。債務不履行となるかは、客観的にみて依頼者の要求・注文に従っていたかが重要な判断要素となります。
予算についても、工事代金は建築業者が決定するものですので、建築士はある程度見込みで設計しなければならないという性質があり、また、工事代金が予算を超えても設計変更により予算内に納めることも可能なことから、予算オーバーだからと言って直ちに設計契約の債務不履行となる訳ではありません。おおよそ20%程度の超過は債務不履行に当たらないと考えられています。もちろん、20%を超えれば直ちに債務不履行となる訳ではありません。例えば、予算オーバーの理由が依頼者の要求を最大限取り入れた結果であったとすれば、上記目安を超えたとしても直ちに債務不履行になる訳ではありません。
結局のところ、設計契約についての債務不履行の有無は、建築士と依頼者のそれまでのやりとりから、どのような要求・注文が出されていたか、建築士にどれだけの裁量が認められていたか等を踏まえ、客観的に判断することになります。もっとも、債務不履行と判断された場合も、依頼主が設計料全額を免れるとは限りません。設計図面が全く依頼者の要求沿わず、依頼主にとって無価値で有益性がない場合は別ですが、建築士とのやりとりにより依頼者のイメージが整理されて設計図面に具現化された部分があり、新たに設計をし直す際に利用できる場合は、その限度で設計料の支払義務が生ずる場合もあります。