出向について
出向とは、雇用契約を結んでいる企業(出向元企業)と他企業(出向先企業)との合意により、労働者が出向元との労働契約を維持しながら、出向先の指揮命令下で働く労働形態をいいます。
出向は、関連会社や子会社などへの技術指導の手段や出向先で経験を積ませるなどの目的で利用されるほか、将来的な転籍も視野に人員整理目的で利用される場合もあります。
会社から従業員に対し出向命令が出されるという形で出向の手続きが進められますが、出向命令が適法とされるには労働者の同意が必要となります(民法625条1項)。この労働者の同意は、必ずしも出向の都度、個別に労働者の同意(個別的同意)をとる必要はなく、事前に包括的な同意をとることで足りると解されています。事前の包括的同意の方法としては、労働協約や就業規則に、出向期間や出向中の労働条件、出向先等の出向に関する具体的な定めがなされていることが必要となります。
上記のとおり、出向を労働者に命じることは、事前の包括的同意で足りると考えられていますが、出向命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、出向命令は無効となります(労働契約法14条)。ここでいう「その他の事情」として考慮されるのは、具体的条件、労働者や労働者の事情が考慮されます。出向の必要性が合理的でも、労働者の被る不利益が大きければ、出向命令が権利濫用として違法と判断される場合がありますので注意が必要です。
そして、出向中は、出向元と労働者、出向先と労働者との間に二重の労働契約が成立することになりますが、それぞれの関係は、出向元と出向先の合意、労働協約や就業規則の定めにより定まります。労働基準法の適用については、その内容により、どちらが労働基準法の「使用者」としてみるべきかで判断されます。例えば、労働時間等に関する規定は、実際に指揮命令権をもつ出向先との関係で適用されると考えられます。
なお、出向し、そのまま転籍となる場合は、原則とて、労働者による事前の包括的同意では足りず、個別的同意が必要です。