住人が氷床のできた敷地内の駐車場で転倒して怪我をしたとして、管理組合に損害賠償請求した事案(仙台地判令和4年1月25日)

1 事案の概要

 本件は、東北地方のマンション内の駐車場施設において、区分所有者である住人が除雪、除氷作業等を行おうとしたところ滑って転倒し、骨折したことを理由に、管理組合に対して損害賠償請求した事案です。

2 裁判所の判断

 裁判所は、管理組合と区分所有者との間の駐車場使用契約から、一般論として、管理組合に駐車場使用者が専用使用箇所に自動車を駐車したり、駐車場外に自動車を移動させたりできるようにすべき義務を負っていたといえ、状況によっては、管理組合に除雪或いは除氷の義務が生ずることもあり得るというべきであるとしました。
 その上で、積雪量が少なく、事故発生時間が早朝であり、同様の駐車スペースが200台以上あったことなどから、管理組合の除雪、除氷義務までは認めませんでした。しかし、除雪作業等を駐車場使用者(住民)に委ねていた等の事情から、管理組合は、駐車場使用者に対し、本件駐車場使用契約に付随して、転倒防止のための安全配慮義務を負っていたとしました。そして、その具体的安全配慮義務の内容としては、駐車場使用者に対し、通常の靴に装着可能な滑り止めや融雪剤等を定期的に周知した上で提供する、抽象的に注意を周知するのではなく、転倒事故が起こりやすい時間帯・気温、ゴム長靴等滑りにくい靴の着用・滑り止めの装着、転倒の危険を減らす歩き方を知らせた上で注意を周知する義務であるとしました。管理組合は、当該義務を履行していないとして、管理組合に安全配慮義務違反を認めました。一方で、駐車場使用者が氷床の存在を知っていたことや自ら転倒防止のための対策をとっていなかったこと、転倒時に除雪作業の動作を行っていた訳ではないことなどから駐車場使用者の過失を75%として過失相殺しました。

3 コメント

 上記のとおり、裁判所は、駐車場利用契約に付随する義務として転倒防止他のための安全配慮義務を認めましたが、東北地方では季節によって積雪があり、裁判例記載の事実からは特別に大雪で危険な状況であったとは考えられないことから、駐車場使用契約の付随義務として転倒防止のための安全配慮義務として上記義務が認められるべきであったかは疑問を感じるところでもあります。裁判所は、除雪、除氷を駐車場使用者が自ら行うという約束であったことなどから、注意周知の限度で管理組合に安全配慮義務を認めたものと考えられます。

 なお、管理組合が民法717条の工作物責任を追及される場合もありますが、東京高判平成29年3月15日は、民法717条の工作物責任については、管理組合はマンションの共用部分を管理しているものの、共用部分はマンションの区分所有者全員の共用に供されるべき部分であるから、マンションの区分所有者全員がこれを占有しているというべきであって、管理組合が共用部分の管理をしていることをもって、これを占有しているということはできないとして、管理組合の工作物責任を否定しました。