区分所有者が管理組合の管理者の解任を請求した事案(東京地判令和2年12月2日)
1 事案の概要
本件は,マンションの区分所有者が管理組合の管理者に区分所有法25条2項所定の解任事由があると主張して,被告を管理組合の管理者から解任することを求めた事案。
主たる争点は,管理者に善管注意義務違反があったかであるが,具体的には,①バルコニーの壁面穴の放置により浸水被害を生じさせたか,②不正な耐震診断結果報告と耐震補強設計実施業務の立ち往生があったか,③管理室のエアコンの工事に関しバックマージンをもらったかである。
2 裁判所の判断
区分所有法25条2項は,管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは,各区分所有権者は,その解任を裁判所に請求することができると定めているところ,ここにいう不正な行為とは,管理者の善管注意義務に違反して区分所有者の全部又は一部に損害を被らせる故意による行為をいい,その職務を行うに適しない事情とは,職務の適正な遂行に直接又は間接に影響を及ぼす事情が存在し,それが重大なものであることをいうものと解するのが相当である。
バルコニーの壁面の穴による漏水事故については,水事故以前に瑕疵の存在を認識していたことや,瑕疵を認識しつつ,これを故意に放置していたという事実を認めるに足りる的確な証拠がないとして,何らかの善管注意義務が発生していたとしても,管理者がこれに故意に違反していたことを認めることはできず,不正な行為をしたことを認めることはできない。そして,耐震診断や耐震補強,バックマージンについても,不正と認める証拠がないとして,善管注意義務違反を否定した。
なお,管理規約上,マンションの住居部分のバルコニーは共用部分ではあるものの,住居部分所有の組合員は,それぞれの住居に付属するバルコニーを無償で専用使用することができること,無償で専用使用することができる条件として,この部分の維持管理の責任を負うものとされており,バルコニーの普通修繕費は専用使用しているそれぞれの組合員の負担するものとされている。本件の水漏れは,排水溝の掃除がされておらず,バルコニーに水が溜まり,エアコン用のスリーブから室内に水が入り階下に漏水したというものであった。
2 コメント
管理者の解任請求は、区分所有法25条2項により、各区分所有者が請求することができますが、管理者である理事長が不正行為を行った場合等に損害賠償請求する場合は、各区分所有者が個別に行うことはできないと解されています。その場合、管理組合ないし管理者が原告となる必要がありますので、当該理事長を解任し(理事会で解任、あるいは総会で理事を解任)、新たな理事長を選任した上で訴訟を提起することになります。